「ここにいる女子少年達は100%性的虐待を受けている」
問題は、非行少年がこうした虐待被害を受けている傾向はその後も続いていることです。その後、2015年11月から2016年1月末日までに全国の少年院に在院していた363人の少年から被虐待体験等の被害体験の回答を得た研究によっても、家族からの被虐待体験のあった少年は、218人と60%を超えており、これを女子に限れば70%を超えていたことが確認されています(※2)。
※2 羽間京子「少年院在院者の被虐待体験等の被害体験に関する調査について」刑政128巻4号(2017年)18頁参照。
犯罪白書も、近年、少年院入院者の被虐待類型別構成比を掲載するようになりました。それによると、2021年では、男子少年の40%が何らかの虐待被害を受けており、女子少年の場合は、それが58.9%にのぼることが明らかにされています(※3)。
※3 法務省法務総合研究所『令和4年版犯罪白書』(2022年)134頁参照
もっとも、筆者は、かつて、ある女子少年院の院長から、ここにいる女子少年達は100%性的虐待を受けているとの話をおうかがいしたことを忘れることができません。
こうした調査ですべての虐待被害が明らかになっているわけではないと考えられます。
18歳の少年に死刑が言い渡された「石巻事件」
こうした虐待被害が背景となった重大事件としては、いわゆる石巻事件が挙げられます。
この石巻事件とは、当時18歳の少年が殺人等を犯したとして裁判員裁判によって初めて少年に死刑が言い渡され、最高裁で死刑が確定した事件として著名なものです。
法廷で取り調べられた証拠では、この少年は5歳時に両親が離婚し、酩酊した母親から暴力を振るわれるなどの被害を受け、小学生となって以降は、愛し、信頼できる存在、導いてくれる存在を持つことができず、少年は暴力を身辺に見てきた成育環境に置かれてきたことが明らかにされています(※4)。
※4 本庄武「石巻事件最高裁判決―少年事件の特性はどれだけ検討されたのか」世界886号(2016年)27頁、河北新報2010年11月18日付参照。
ということは、この少年は身体的虐待のみならず、面前DVなどに象徴される心理的虐待の被害にも曝され続けてきたと言えます。