結婚していないことを根拠に独身の人を解雇

シングルの人たちはいろいろな意味で(公然との場合もあれば、暗におこなわれる場合もあるが)、社会から排除され、差別されている。

独身差別に関する文献や資料は、そのほんの一端を明らかにしているにすぎない。独身差別が当たり前のようにおこなわれている分野をみてみよう。

よく知られている例として、2014年にビュート・セントラル・カトリック・スクールから解雇されたシーラ・エヴェンソンのケースがある。彼女が独身なのに妊娠しているという手紙が教区に送られたためだ(※17)

何年にもわたる面倒な法的手続きのすえに、やっとのことで、学区とローマ・カトリック教会ヘレナ教区とのあいだで和解協定が結ばれた。

アメリカの法廷はこれまでに何度も、結婚せずに妊娠している教師の解雇は無効だという判決を出してきた。それでも、このような差別的な行為は後を絶たない(※18)

たとえば、こういう例もあった。イギリスの正統派ユダヤ教の保育園で働く24歳の教師ゼルダ・デ・グローンは、恋人と「罪深い生活」を送っているという理由で解雇されたが、これは宗教的、性的な差別にあたるということで勝訴した(※19)

ゼルダは上司たちから屈辱的な面談を強いられ、23歳のときに結婚するべきだったと言われた。雇用裁判所は、このような扱いは「侮辱的で、名誉を傷つけるものであり、攻撃的である」と裁定した(※20)

私たちは、人種、民族、性的指向を理由とする差別の例は見慣れているが、結婚していないことを根拠に独身の人を解雇したり、そもそも雇用しなかったりといったことも、それらと同じくらい、しょっちゅう起きている。

彼らが結婚していないのは、単に自分の私生活において自分自身の選択をしている結果にすぎないにもかかわらずだ。

2010年にも、サウスカロライナ州の共和党の元上院議員ジム・デミントが、「ボーイフレンドと一緒に寝ている結婚していない女性は……教室にいるべきではない」とあからさまな発言をしている(※21)

小さな町では特に、多くのシングルが学校の採用委員会の選考に合格できなかったり、子どもたちのそばにいるべきではないと暗にプレッシャーをかけられたり、あるいはあからさまにそう言われたりしている(※22)

「家族がいないなら、もっと働いて!」

結婚している人たちに比べて、シングルの人たちの私生活は、正当なものでも、重要なものでもないという考えもはびこっており、シングルの人たちは毎日の職場でもしばしば差別にさらされている。

欠勤している同僚の仕事をカバーしたり、残業したりするように命令されるのは、暇があるはずだと決めつけられているからだ。既婚者より多く出張に行くべきだと思われているし、既婚者が家族と過ごすために休暇をとっている時期には勤務シフトを引き受けるべきだと考えられている。

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その結果、シングルの人たちがわずかな残業代で、あるいは報酬なしで、既婚者より長時間働かされるのもよくあることだ。次に紹介する匿名の独身男性の投稿を読めば、このような決めつけが、はっきりとではないにしても、しょっちゅうおこなわれていることがわかるだろう。

私は職場でひどい独身差別がおこなわれていることに気づいた。結婚している人たち、特に子どものいる人たちは、自分たちのスケジュールは私のスケジュールより優先だと考えているらしい。なぜかというと、私は独身だから、彼らのような責任がないと思われているわけだ。

3週間ほど前、会社が研修を企画し、2日間のうちの1日を選ぶようになっていた。研修の通知を受けとると、私はすぐに前のほうの日に申し込んだ。後のほうの日は休暇をとってあって、親友とバーベキューをしに行く予定だったからだ。

研修のわずか2日前になって、ミーティングがあった。研修の日程が話題になって、文句を言い始めた人たちがいた。

「その日は子どもの面倒をみることになってるんです。だから、絶対無理」とか、「その日はうちの子の大事な試合があるんだ。その日はダメ」とか、「その日は子どもたちの医者の予約があって、変更をお願いしたら、診てもらえるのはずっと先になってしまう」などなど。

で、彼らは前のほうの研修日に申し込んでいる人たちに、ほかの人の都合に合わせて、後のほうの日に変わってもらえないかと言い出した。設備の関係で、1日目と2日目の各クラスに入れる人数は限られているからだ。

もちろん、大勢が私のことをあてにしていた。私が独身だと知っているから、彼らに言わせれば、「あいつが替わってくれていいはずだ。独身で、責任がないんだから」ということらしい。

私はただ、「悪いけど、交代はできません。その日はバーベキューの予定があるから」と言った。彼らは、おまえの「娯楽」のバーベキューがうちの子どもたちより重要だっていうのか、と言わんばかりだった(※23)

この話も、シングルの人が自分の優先事項をあきらめ、もっと仕事をするようにプレッシャーをかけられた多くの事例のひとつだ。

シングルの人たちはレジャーの時間をあきらめるように要求されるだけではない。シングルであることが理由で、既婚者より収入が少ないことにも気づいている。

ある研究によると、既婚者は同等の仕事をしているシングルよりも約26%多く報酬を受けとっている(※24)

さらに、多くの雇用主が従業員の配偶者や同居しているパートナーの医療費そのほかの福祉手当を負担しているが、シングルの従業員の親やきょうだい、親友のためにそのような福祉手当を提供することはない(※25)

このような慣習や偏見は仕事上の昇進にも影響を与えており、シングルの人たちの昇進を既婚者よりも遅くしている(※26)