広大な外苑の「土地所有者」は誰なのか

この外苑の「土地所有者」は、あまり知られていない。周辺施設を見渡す限り、国や東京都、特別区あるいは企業が区分所有しているようにみえる。だが、エリアの大部分は、宗教法人明治神宮が保有し、管理しているのだ。

明治神宮が保有している土地は、聖徳記念絵画館のほか、道路部分などを除く銀杏並木、神宮球場、神宮第二球場、ヤクルトクラブハウス、神宮外苑室内テニスコート、神宮外苑ゴルフ練習場、スケート場、など外苑の大部分を占める。

秩父宮ラグビー場、ラグビー場東テニス場は独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)の所有。東京体育館は東京都の土地だ。新国立競技場はJSCと東京都、新宿区などが所有する。

神宮外苑の多くの土地が、明治神宮に帰属する理由は、明治天皇の崩御時にさかのぼる。神宮外苑は、明治天皇崩御後の1920(大正9)年に創建された内苑に続き、同天皇と昭憲皇太后の遺徳を後世に伝えるために1926(大正15)年に造られた。

外苑の中心的建造物は聖徳記念絵画館(重要文化財)で、旧青山練兵場跡に国立競技場(旧陸上競技場)や神宮球場などのスポーツ施設が造成された。当時は国家神道体制の時代だったので、まさに国策として神宮内苑と外苑が造成されたのだ。

内苑および外苑は、戦後の宗教法人法の下に宗教法人明治神宮の所有となり、明治記念館や神宮球場などの施設の事業収入(宗教法人の収益事業)を得る収益構造になった。つまり、内苑は初詣などの賽銭や各種儀式などの宗教活動収入が主たる収入であるのに対し、明治神宮全体としての屋台骨は外苑における事業収入というわけだ。

週刊ダイヤモンド(2016年4月16日号)』によると、神宮全体の収入は140億円程度としている。内訳として、明治記念館とグループ会社の売り上げで合計64億円。外苑の事業総収入はベールに包まれているものの60億円程度(2010年)という。

つまり、宗教活動収入はおよそ12%に過ぎず、残りの86%を収益事業で賄っていることになる。直近の詳細の数字は、週刊ダイヤモンドの見立てとは多少は異なっていると考えられるが、明治神宮が外苑の収入に大きく依存している構造は変わらないだろう。

神宮内苑は本殿や神楽殿などの宗教建築物のほか、広大な杜や参道の整備・管理、さらには人件費などの固定費に莫大な費用がかかる。賽銭、祈願、お札の販売などでは到底、賄い切れるものではない。外苑がなければ、明治神宮はとっくの昔に経営破綻していることだろう。

それでなくとも明治神宮は近年、コロナ禍における結婚式事業の苦境、参拝数の激減など、厳しい局面に立たされているとみられる。外苑を再整備して、付加価値を高め、収益を増やしていきたい考えだ。