政府と専門家の関係は様々だった
【尾身】政府と専門家の関係はその時々の状況によって様々でした。多くの場合、政府は私たちの意見や提案を採用してくれました。また、我々の意見の一部だけを採用、あるいはちょっと時間がかかってから採用してくれた場合もありました。さらに今回のように我々の意見をまったく聞かずに政府が決めた場合もありました。こうしたそれぞれのパターンは安倍政権だけでなく、菅義偉政権、岸田文雄政権でもありました。
休校やアベノマスク配布のように、明らかに我々の考え方と違う対策を政府が実行することも時々ありました。当時はアベノマスクの配布より、PCR検査体制の拡充に力を入れてくれたら良かったのに、とも思いましたね。
政府が専門家に相談せず決めた背景には、政治家としての責任感というか、この危機に際し、リーダーシップを発揮するという強い思いがあったんだろうと思います。その点については、私は敬意を表したいと思います。政治家は選挙で選ばれたリーダーだから、最終的には、自分たちがリーダーシップを発揮しなくてはいけない、と思われるのは当然ですが、しかしその際、少しでも専門家の意見を聞いた上で最終決断をしていただければよいのではないかと思います。
「官邸主導の政治」の頂点が第2次安倍政権
【官邸官僚】
首相の側近として各省庁から官邸に引き抜かれた官僚のこと。その代表が「首相秘書官」だ。首相の指示により、政府の各部署や与党、各省庁との調整などを行う。首相秘書官には、政権運営や首相の政治活動など政務全般を取り仕切る「政務首相秘書官(1人ほど)」と、財務省や外務省、経産省、警察庁などから将来の事務次官候補と目されるエリートが任命される「事務首相秘書官(6人ほど)」がいる。
政務首相秘書官は通常、首相の国会議員秘書として長年仕えてきた「懐刀」が選ばれ、「首席秘書官」とも呼ばれる。有名なのは、衆議院議員の小泉純一郎元首相の議員秘書を務めてきた飯島勲氏だ。一方、第2次安倍政権では経産省出身の今井尚哉氏、岸田政権でも同省出身の嶋田隆氏が任命された。
また、官僚トップの官房副長官や国家安全保障局長らも官邸官僚だ。首相秘書官と似た名前の「首相補佐官」は基本的には国会議員がその職に就き、特定の重要政策の企画立案にあたるが、官僚出身者が任命された時には、官邸官僚と呼ばれることもある。
従来、各省庁の官僚や与党の族議員が影響力を行使し、それぞれの権益を重視した政策決定が行われることがあり、国民から批判された。1990年代以降、首相のリーダーシップのもと、官邸主導でトップダウンの指示を出し、政策を実行できるように様々な改革が行われた。この「官邸主導の政治」の頂点に位置したのが第2次安倍政権だ。各省庁の官僚が発言力を弱め、官邸官僚が辣腕を振るった。