根回しなしの安倍首相の政治決断

【一斉休校】

専門家会議だけでなく与党の事前了承も経ない、根回しなしの安倍首相の政治決断だった。「何よりも子どもたちの健康、安全を第一に考え、日常的に長時間集まることによる感染リスクに備える」。安倍首相は2020年2月27日、そう一斉休校の理由を説明したが、あまりに突然の発表で、全国の自治体や学校関係者は困惑した。

休校が始まると児童生徒のいない学校は静まりかえり、学習塾では出勤前の保護者に連れられた小学生や自習に励む高校生の姿が見られた。学習の遅れを心配する子どもたちのために、オンラインで教材を提供する動きが広がった。

共働き家庭やひとり親家庭は、自宅で過ごす子どもをどのように見守り、どのように食事を食べさせるか、頭を悩ませた。子どもを親類に預けることができない場合、学童保育などが受け皿になった。政府は、休校に伴って子どもの面倒をみる従業員が有給休暇を取得できるように企業が環境を整えたら、有休取得者数に応じて企業に助成金を支払う制度を新設した。

3月20~22日に行った読売新聞社の全国世論調査によると、政府が、全国の小中学校や高校などに春休みまでの臨時休校を要請したことが「適切だった」は64%で、「そうは思わない」の28%を上回った。

学校の教室
写真=iStock.com/DONGSEON_KIM
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アベノマスクも相談はなかった

深刻なマスク不足に日本中が悩まされていたことを受け、安倍首相は2020年4月1日、全国すべての世帯に布マスクを2枚ずつ配布すると表明した。配布の遅れやサイズの小ささなどから、「アベノマスク」とやゆされた布マスクだ。安倍首相は、政権中枢に権力や権限を集中させる「官邸主導の政権運営」を進めており、その中で絶大な力を持ってきた官邸官僚が、アベノマスクの配布を発案したとされる。布マスクが届く頃には、徐々にマスク不足が解消され始め、その必要性の是非が議論された。

――「アベノマスク」の配布の話は事前に聞いていましたか。

【尾身】これについても何も聞いていません。まったく事前相談なしです。

――政府側から「マスクを配ろうと思うが、どのように思うか」と聞いてくれたら良かったとは思いませんか。

【尾身】テクニカルな側面を十分専門家から聞いて、咀嚼そしゃくしてから、政治が最終判断をしていただけたら一番良いと思いますね。もちろん、結果的には専門家の意見を採用しなくてもいいのです。ただ、その際は、理由を説明していただくことが求められると思います。