人類の歴史は感染症との闘いの歴史
【パンデミックを引き起こした感染症】
人類の歴史は、感染症との闘いの歴史とも言える。天然痘(痘そう)は紀元前から、非常に強い感染力と非常に高い致死率で世界の人々を恐怖に陥れた。天然痘ウイルスによる飛沫感染が主な感染ルートで、症状は急激な発熱、頭痛など。治っても失明したり、あばたが残ったりした。紀元前のエジプトのミイラに天然痘の痕跡がある。日本には6世紀頃に上陸したとされ、その後、流行を繰り返した。
イギリスの医師、エドワード・ジェンナーが1796年、「種痘」という予防法を開発した。天然痘ほど危険ではないが、天然痘に似た牛の感染症「牛痘」にかかった人のウミを、ほかの人に注射することで天然痘にかかりにくくする。人類初のワクチンだ。180年あまり後の1980年、WHOが天然痘の世界根絶宣言を出した。天然痘は人類が根絶した唯一の感染症である。
ペストは、患者の皮膚が黒くなる特徴的な症状から「黒死病」と呼ばれた。ペスト菌による感染症で、菌を保有するネズミなどに取り付いたノミを介して感染する「腺ペスト」と、感染者の飛沫を介して感染する「肺ペスト」がある。症状は腺ペストがリンパ節の腫れや発熱、頭痛など。肺ペストがせきや高熱、呼吸困難などだ。14世紀にヨーロッパで大流行し、ヨーロッパだけで全人口の4分の1~3分の1にあたる2500万人が亡くなったとされる。
何度もパンデミックを起こした「インフルエンザウイルス」
インフルエンザウイルスは、自らの構造を変え、「新型インフルエンザウイルス」として幾度もパンデミックを起こしてきた。季節ごとに流行を繰り返す季節性インフルエンザとは異なり、人間が免疫を持っていないことから甚大な被害が出ることが想定された。
第1次世界大戦中の1918年に流行が始まった「スペインかぜ」は、世界で4000万人以上が亡くなったとも言われる。1957年に中国で流行が始まった「アジアかぜ」では200万人ほど、1968年に始まった「香港かぜ」では100万人ほどの死者が世界で出たと推測される。
記憶に新しいのが、2009年4月から世界で流行した「新型インフルエンザ(H1N1)」だ。米国とメキシコ周辺で豚が感染するインフルエンザウイルスに人間が感染したのが始まりとみられる。日本を含む214の国と地域で感染が確認され、1万8000人以上が亡くなったとされる。
日本政府は12年、新型インフルエンザ等対策有識者会議(尾身茂会長)を設置して課題を分析し、将来、襲来する感染症に備えるための対策を練った。しかし、今回の新型コロナウイルス対策には、ほとんど生かされなかった。