脱毛トラブルは症例の見極めが難しい

一方、皮膚科を専門とする「皮膚科専門医」は、2年間の初期研修後、研修指定病院で5年以上の研修を修了し、所定の回数の学会発表や論文発表を行い、年々難化する皮膚科専門医の認定試験に合格した医師のみが名乗れます。5年毎の更新手続きも必要です。もちろん、専門医の資格がなくても知識やスキルの向上に努めている医師はいらっしゃいます。

ただ医療脱毛において、レーザー脱毛による副作用はやけどだけではありません。

例えば脱毛の出力が強いと毛穴にニキビのような反応が起きてしまうことがあります。これは毛穴のやけどで、本来はステロイドの塗り薬で治療しなければいけないのですが、見た目は、まるで膿んだニキビのようなので、膿んだニキビの治療に使う抗菌剤の塗り薬を塗ってしまうケースもあります。当然、抗菌剤を塗っても治りません。

他にもレーザー脱毛をすることによって、逆に毛が太くなる「硬毛化」という現象が起きることもあります。このように見極めが難しい症例がたくさんあるため、個人的には特にレーザー治療を受けるのであれば、やはり皮膚科専門医あるいは形成外科専門医でなければ安心できないと考えています。

根底に「楽して儲けている」というイメージが

このように皮膚科専門医でない医師が医療脱毛に携わっていることについて、医療側で問題にする目立った動きは今の所ありません。

その理由の一つに、医療脱毛をはじめとする美容医療について「美容は医療ではない」と考えている医師が少なくないことがあります。私自身、大学病院でアトピーなどの保険診療の経験を積み、皮膚に関する研究論文を発表していた頃はそう考えていましたし、開業当初も同じように思っていました。

そして、私のような皮膚科専門医が保険診療だけでなく、自由診療の美容医療を行うことに対して、「楽してもうけている」と、いいイメージを持たない人がいるのも事実です。

実際、当院で医療脱毛やシミ取りなどの美容医療を始めた頃、他科の医師から「先生はちょっとレーザーを当てるだけで、何万円ももらえていいですね」と言われたこともありますし、同じように思っている方がいることは感じていました。私の説明不足が原因だったものの、信頼していた院内のスタッフからも「とうとう院長はお金儲けに走るんですか?」と言われたこともあります。

写真=iStock.com/Paz Ruiz Luque
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保険適用で治るニキビに100万円かける人も…

それでも私が開業から1年半で美容医療を取り入れたのは、前述した他院での医療脱毛の副作用のやけどの患者さんだけがきっかけではありません。他のクリニックでのレーザー照射によって余計にシミが濃くなってしまったケースや、保険適応の塗り薬で治るはずの普通の「ニキビ」に対して、100万円もする高額な美容医療の「ニキビ跡」の治療を受け続けていたために治らないなどの理由で、当院を受診する患者さんたちがたくさんいたからです。

また平然と「副作用は診られないから、皮膚科に行ってください」と言う美容クリニックや医療脱毛専門クリニックもあるようで、患者さんの不安な気持ちを考えるとやり切れないですし、美容医療や医療脱毛をうたっておきながらトラブルになると最後まで責任を取らずに丸投げしてくる姿勢にも、同じ医師として憤りを感じていました。

一般皮膚科の知識を備えた私たち皮膚科専門医が美容医療を行えば、万が一、トラブルが起こっても適切な対処ができます。例えば美容医療のみのクリニックでは、アトピー性皮膚炎やニキビなどの肌トラブルを抱えた患者さんはリスクがあるため、医療脱毛を断られることもあるようです(トラブルが起きてから皮膚科に行ってくださいというより誠実だと思います)。