キリスト教が広く根付いた韓国との違い

【島薗】そうですね。日本で新宗教がこれほど広がった理由はいくつかありますが、まず近代に入って庶民の間に、「この世でもっと幸せになれる」実感を多くの人が持つようになったことは挙げられるでしょう。次に、東アジアの中でも特に日本では、現世肯定的な儒教や神道が強い影響をもっていたことが挙げられます。

ただし日本の場合は特殊だと言えます。同じように神道や仏教が根付いていた東アジアの地域、例えば韓国では、日本と同様に新宗教が生まれ、キリスト教と競争関係にありました。しかし結果として庶民に広くキリスト教が根付いていった。

その背景には、韓国のキリスト教が日本の植民地主義に抵抗する力となったこと、1945年以降はアメリカの支持を得たこともあります。そもそも世界的にみると、近代以降のキリスト教は、庶民が主体的に信仰していくことで勢力を広めた宗教だといえるんです。

「天国」の存在が救いになる人、ならない人

【最相】そもそも科学がここまで進歩すると、「天国がある」「この世界をつくった創造主がいる」「信じるものは救われる」といった教義を押し出されることに、抵抗を感じる現代人は多いのではないかと思います。

証し』の中では、サイエンスを専攻しながらクリスチャンでもある方にお話を聞きました。ある方は、科学と神を信じることは、自分の中で矛盾をしないのだと話していた。真理を求める人生の歩みが、神を信じることとひとつになっているのだと感じました。

撮影=髙須力
最相氏が取材した男性は「イエス・キリストの復活についても、理屈では説明しようがありません」と話した

【島薗】第13章「真理を求めて」ですね。神学的なニュアンスがある章だと感じました。

最相さんは、日本の今のキリスト教徒たちの「天国」や「最後の審判」の感覚はどのようなものだと感じましたか?

キリスト教はまさに救済宗教で、死んだあとは天国に行く、あるいは最後の審判で永遠の生命を得ると考えられていますよね。

【最相】何度か教会のご葬儀に参列した時には、「天国でまた会える」「イエスの御許に帰ったんだ」とお話しされる方が多く、みなさんあまり悲しそうな雰囲気ではなかった印象を持ちました。それは信仰を持たない私からすると、不思議に感じることでもあり、同時にこれがキリスト教の救いなのかとも感じました。

ですが、そう受け止められなかったお話もいくつか聞きました。配偶者を亡くした方が、悲しみが深すぎて、「夫は神の御許に行ったのだ」と受け止めることができない、と。ご主人もクリスチャンでしたし、キリスト教の救いはそこにあると思っていたので、私もショックを受けましたね。『証し』にはご本人の希望で掲載していないのですが。