街宣活動や批判記事も

こうした動きは、地方議員にも起こっていた。埼玉県議で自民党県議団の幹事長、田村琢実議員だ。

田村議員は、かつて日本会議に所属しており、当時は保守政治を進めるためには、選択的夫婦別姓やLGBTの権利保護を推進する必要性はないと感じていたという。しかし、当事者の声を聞いたことをきっかけに、法律や制度上困っている人たちがいることを知り、勉強会を立ち上げたという。そして2022年に埼玉県議会で制定された「埼玉県性の多様性を尊重した社会づくり条例」に関わった。性的マイノリティーの人の差別を禁止する、差別禁止条例だ。

条例案制定の直前ぐらいから、条例制定の中心的人物だった田村議員に関する批判的な記事が、保守系雑誌や日本会議の機関紙に掲載されるようになったという。地元の右翼団体に街宣活動をされたほか、批判する記事のコピーが選挙区の全戸に配られたという。「『LGBTQと夫婦別姓に賛成する田村は立憲に行け』『自民党から出ていけ』といった内容でした」

誰が、どんな団体が中心となってやっているかは分からなかったという。「僕の想像ですが、(条例の主旨や夫婦別姓に)反対する団体が、お金を出していたのではないかと思います」

問題の解決は「日本の成長に必要」

田村議員は、性的マイノリティー差別の問題を解決することは、これからの日本の成長にとって大切なことだという。

「戦後の経済成長期からこれまで、日本は多様性をなおざりにし、経済優先でやってきました。それが『失われた30年』、そして日本の衰退につながっています。多様性や、一人ひとりの能力を生かすことに目を向けてこなかったために、今の日本では新しい発想が生まれず、人も生かし切れていない。そこに目を向けないと、日本の発展はないと思います」

保守政治家を自認する稲田議員は、LGBT法はイデオロギーに関わるものではなく、人権に関わる法律だと言う。

「『保守であるかどうか』といったイデオロギーの問題ではありません。こうした差別に苦しみ、自殺までする人が現実にいる。政治に求められるのは、苦しむ人たちを少なくすることだと思います」

国会の会期末も6月21日に迫っている。2年前のように時間切れになるようなことだけは、避けなければならない。

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