胎児との結びつきが強い胎盤のメリットとデメリット

受精卵が子宮壁に着床すると、子宮と胎児の間には「胎盤」と呼ばれるものがつくられる。この胎盤こそ、我々哺乳類が獲得した形質の中で最大の功績であり、ここまで繁栄できた最大の戦略であるといえる。

胎盤は、母体側の子宮由来の膜(基底脱落膜)と胎児由来の膜(絨毛膜有毛部)が結合することでつくられ、胎児の生命活動を支える。胎盤と胎児は臍帯さいたい(尿膜管の遺残と血管の集合体)で連結し、母体から胎児へ栄養分や酸素が送られ、胎児から母体へ老廃物が渡される。

臍帯の痕跡が、我々のおなかの真ん中にある“おへそ”である。幼い頃、おへそを出したまま寝ていると、祖母に「雷様の大好物だから取られちゃうぞ」と脅されたりしたものだ。また、おへその中を興味本位でほじって、おなかが痛くなった経験はないだろうか。臍帯がなくなった後も、おへそとおなかの中は繋がっているので、おへそに刺激が加われば当然、おなかの中に伝わってしまうのだ。

おへそと繋がっていた胎盤は、成長する胎児を子宮内で支える役割も担い、胎児の成長を補助する。胎盤自体がホルモンを分泌し、妊娠を正常に維持する役割も担っている。

イラスト=芦野公平
出典=『クジラの歌を聴け』より

人間の盤状胎盤は流産リスクが低いが難産になりやすい

胎盤は、構造によって「盤状胎盤」「帯状胎盤」「多胎盤」「散在性胎盤」の4つに分けられる。

このうち、サルや私たち人間を含む霊長類の胎盤は「盤状胎盤」である。

盤状胎盤は、子宮の一部に丸く盤状に形成される。他の胎盤より、胎児に対して占める面積は小さいものの、母親と胎児の結合は最も密である場合が多い。じつは、この母親由来の膜と胎児由来の膜の結合にも5つのタイプがある。ヒトを含む高等霊長類は、血(母親由来の血液)-絨毛膜有毛(胎児由来の絨毛)という一番密な結合をつくるタイプのため、妊娠中の流産のリスクは比較的低い反面、出産時に胎盤が剥がれるのに時間がかかり、胎盤の剥離による出血量も多い。

なにせ、母体の血液の中に胎児の絨毛が入り組んで結合しているのである。胎盤が剥がれるときの子宮のダメージも甚大で、難産になることも多い。産後、このタイプの結合をもつ動物の親子関係は密接で、ある程度の期間をかけて子育てを行う傾向がある。