イスラエルのエルサレム・ポストは、発言にはプーチン氏への一定の配慮が含まれていると見る。プリゴジン氏はメッセージにおいて、ロシアはウクライナの領土の大部分を占領したと主張し、作戦が成功裏に終わったとのスタンスを強調した。

以前からプーチン氏との見解の相違が指摘されていたプリゴジン氏だが、今回の発言においては「ロシアの権力を脅かすものは何ら存在しない」と述べ、プーチン氏を立てた形となる。体面を捨ててでも、迅速に戦闘終了を促したい意図がありそうだ。

2010年9月20日、ウラジーミル・プーチン首相(当時)は、学校に調理済みの食事を供給する新工場を視察した(写真=Government of the Russian Federation/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

訓練不足の囚人は戦力にならなかった

終戦や和平交渉への転換をちらつかせるこのメッセージには、長引く戦況に痛手を負うワグネルの狼狽が透けて見える。

ニューヨーク・タイムズ紙は、ロシア正規軍でさえも動員による政治的コストが課題となっていると指摘する。また、徴兵から部隊を組織し、訓練を経て戦場に送るまでに、時間的コストや経済的コストが無視できない。

ワグネルの場合も状況は似たようなもので、ほとんど戦闘経験のない元囚人たちを大量に雇い、前線に送り出している。同紙はアメリカ政府筋の見解を取り上げ、「ワグネルの囚人からの新兵など、前線に急いで送り出された部隊は、すぐに大砲の餌食になるのだ」と指摘している。

囚人から雇用した兵士の数をワグネルは公表していないが、数万人規模になるとの見方がある。ロシア独立紙のモスクワ・タイムズは4月、同じく独立系のニュースメディア「メディアゾナ」の報道を取り上げ、ロシアで収監中の囚人の数が1万7000人ほど減少していると報じた。

メディアゾナによると、侵攻以前の囚人数はむしろわずかに増加傾向にあった。そのため、この急激な減少の数は直接、傭兵として連れ出された囚人の数を表している可能性があるという。1万7000人という数字は、ロシアの半分以下の地域の動向を集計したものだ。ロシア全土ではさらに多くの囚人が傭兵として採用された可能性がある。

米CNNは2月、ワグネルが「ロシア全土の刑務所にいた4万~5万人の囚人と契約を結んだ」と報じていた。

殺人犯やレイプ犯も傭兵になったが…

兵員不足は深刻化している模様だ。未確認ながら、現役市長が戦地に赴いたとの報道も聞かれるようになった。ラジオ・フリー・ヨーロッパによると、ロシア東部・ボリショイカーメニ市のルスタム・アブシャエフ市長は、自らがウクライナで戦うロシア軍に参加したと語った。戦闘服を着込み、焼け野原を歩く映像をTelegramに投稿したという。