減薬することは決して不可能ではない

そして「これらの記事を書いた人は、実際にあなたの診察をしてはいないし、今後もしてくれることはなく、記事の影響であなたが服薬を止め、その影響で、もしなんらかの有害事象が発生しても、一切責任など取ってくれないのです」ということも付け加えて説明している。おそらく記事の筆者たちは、患者さんが混乱に陥って、診察室内で医師とこのような会話がかわされていることすらご存じないであろう。

降圧薬や血糖降下薬など、止めることで生命にかかわる薬以外にかんして言えば、優先順位をつけつつ可能なかぎり患者さん本人と対話を重ねて減薬していくことは、時間もかかり必ずしも簡単なケースばかりではないものの、決して不可能なことではないと言えよう。

ただ、現役世代で「メタボ」とされて投薬が開始された人が、その後、人生最期まで同じように投薬され続けて良いのかという問題は当然ながら存在する。検査の異常値も、現役世代と高齢者ではその解釈に違いがあるのは当然だ。採血データを基準値内に収めておけば、患者さんの「最期のときまで少しでも生活の質を保ちつつありたい、少しでも苦しまない状態で生命を維持したい」との希望が必ずしも叶えられるわけでもない。

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高齢者の健康診断は本当に必要ない?

食べたいものを我慢してまで、血糖値やコレステロール値や血圧を基準値内に収めたところで、寿命はもちろん苦痛をもたらす疾患の発症にほぼ影響がないのであれば、過剰な食事制限や投薬はむしろその人の生活の質を落とすだけなのだから、中止もしくは緩和すべきであろう。だがそれも、やはり個々人を診て、本人と十分に話し合って決められるべきことであって、「○○歳以上は内服不要」といった画一的な線引きをするのは、「わかりやすい」かもしれないが、かなり乱暴な意見である。

健康診断についても同様だ。「○○歳以上の高齢者にはもう必要ない」との意見もあるようだが、私は高齢者の健康診断は決して無駄ではないと考えている。確かに高齢者の多くはすでに何らかの疾患を抱えており、70歳以上の人の8割超は、いわゆる「かかりつけ医」を持っているという。このような何でも相談に乗ってくれる医師が身近にいる人であれば、健康診断をあえて受けに行く必要はないだろう。

しかし問題は、残りの2割弱の「かかりつけ医」を持たない高齢者の健康だ。もちろん「かかりつけ医」がいないのは、特に疾病も抱えておらず何ら健康不安もないということなのかもしれないが、冒頭でも述べたように加齢で身体機能が低下し、生命を維持することが徐々に困難となって、最終的に死に至る宿命からは、そういう人でも逃れることはできない。