死ぬ時に一番お金を持っている

DIE WITH ZERO』というタイトルが意味するのは、「ゼロで死ね」、つまり「死ぬ時までにお金はすべて使い切ってしまおう」ということです。

ところが、実際には多くの人は「死ぬ時に最もたくさんお金を持っている」ようです。

図表1をご覧ください。これは日銀金融広報中央委員会が調査した「家計の金融行動に関する世論調査」(2021年)にある数字ですが、年代別に金融資産の保有額を中央値で見てみると、60代が1400万円、70代が1500万円と、他の年代に比べて突出しています。

これを平均値で見てみると、さらに増え、60代では3000万円にもなります。

これを見る限り、「死ぬ時に最もたくさんお金を持っている」というのはどうやら正しいようです。

このお金を、生きて元気なうちに使っていれば、どんなに幸せだったろうかということを考えるべきだ、とこの本は主張しています。

私もこれにはまったく同意します。やりたいことを我慢して、ひたすらお金を貯めることが果たして幸せなのでしょうか。「黙々と働いて、預金通帳に数字が増えていくことを眺めるのが無上の喜び」という人もいるでしょうが、それはやはりどこか心の構造が歪んでいるのではないかという気がしてなりません。

なぜ、人はお金を増やし続けるのか

ではなぜ、多くの人がやりたいことを犠牲にしてまで、お金を貯め、増やし続けるのでしょうか。

写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
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それはやはり、前回お話しした「老後不安」というナラティブがあるからです。人間の行動を強く促す要因には「欲」と「恐怖」がありますが、中でも「恐怖」の力は大きいといえます。

そもそも、老後というのは将来のことです。将来のことは誰もわかりませんから、不安が生じるのは当たり前です。しかも最近ではメディアが「老後貧乏」だとか「老後破綻」などという言葉を使って、さらに不安を煽りますから、次第に不安が恐怖に変わっていきます。

その上、「老後不安」というナラティブは、金融機関の営業にとっても非常に都合のよい話ですから、これを武器にして金融商品の購入を一生懸命勧めてきます。

結果として、どこまでいっても果てのない不安から、お金を増やすことに意欲を燃やし続け、最終的には「死ぬ時に一番たくさんお金を持っている」という状態になるのでしょう。

でも繰り返しになりますが、私は、過剰な老後不安を持つ必要はないと思います。日本においては、自営業の人であれば公的年金だけで生活していくのは難しいですが、普通のサラリーマンであれば、そんなに心配する必要はありません。