ウイルスを知り、「仲良く」生きていく

新型コロナウイルスは、パンデミックを引き起こした。これだけ医療を含む科学技術が進化した時代に、感染症の大流行で多くの人びとが亡くなり、社会生活が大混乱を余儀なくされるなど、予想していた人はほとんどいなかっただろう。しかしそれが、現実のものとなった。

野生生物と平和に共生していたウイルスが、大航海時代の幕開けとともに旧大陸から新大陸に持ち込まれ、新たな感染症を引き起こした。現代社会では人の大規模な移動や人口が密集する都市化、新しい生活様式や様々な医療行為、珍しい野生動物のペット化、そして大規模な森林伐採などの環境破壊により、未知のウイルスが人類と出会うようになってしまった。

中村尚樹『最先端の研究者に聞く 日本一わかりやすい2050の未来技術』(プレジデント社)

人間中心に経済成長や新たな刺激を追い求めてきたツケのひとつが、感染症によるパンデミックという形で現れてきている。先述したワンヘルスの思想を踏まえれば、これからの社会はヒトの健康だけを考えるのではなく、家畜はもちろん、野生動物を含む自然環境が健全でなければならない。家畜を快適な環境下で飼育するアニマルウェルフェアも、これまで以上に重要になるだろう。私たちの身体を見てみると、肺などの臓器や血液のなかには、たくさんの微生物が存在している。ひとりの人間の身体には、驚くことに100兆個以上の細菌やカビ、ウイルスなどが生息していて、ふだんは何の問題も起こしていない。というよりも、例えば腸内細菌は、ヒトが消化できない食物繊維を消化してくれる。胎盤の形成には、過去に感染したウイルスの機能が活用されている。ウイルスの側にしてみても、無茶をしすぎて宿主が死んでしまったら、自分も生存することができないのだ。

「ウイルスは、私たちよりも細胞のことをよく知っていて、細胞の言葉を話しています。だからウイルスを単に怖がるのではなく、よく知ることが大切です。そして仲良く生きていければと思います」

松浦は新型コロナウイルスについて「慣れない環境で大暴れしているのだろう」と話す。新規の感染症にはそれに見合った予防法、そして治療法が必要だ。それと同時に、ワンヘルスの思想で、ウイルスを含めた生きとし生けるものが共存できる地球をつくっていきたい。

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