過去の感染症の教訓を活かしていない
21世紀になって新たに登場したコロナウイルスとしては、2003年にアジアやカナダなどで流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)、2012年に中東地域を中心に流行したMERS(中東呼吸器症候群)がある。感染力、毒性ともに強いウイルスだ。しかし予防ワクチンや治療薬の開発を待つまでもなく、隔離と検疫という古典的対策で早期に収束した。
「あのとき、SARSやMERSの薬を作っておけばよかったのです。しかし作っても需要がないというので、作るのをやめてしまったのです」
確かに新薬の開発には、巨額の費用がかかる。製薬会社としては、投資だけして回収できないのでは、企業として存続できない。それでも欧米の製薬会社が新型コロナウイルスに対するワクチンを一年足らずというこれまでにない短期間で開発できたのは、深刻な被害に直面したこと、ワクチン先進国の技術の蓄積に加え、政府から巨額の開発資金が投入されたからだ。
ワクチン開発実績がほとんどない日本
これに対して日本の製薬会社は、新たなワクチン開発の実績がほとんどない。2010年には新型インフルエンザの流行を踏まえて政府の有識者会議が「国家の安全保障という観点」から、ワクチン開発と生産体制の強化を提言した。
しかし研究開発面でも、予算面でも立ち遅れ、新型インフルエンザやMERSに対するワクチンは国の支援を受けられなかったことから開発が中断されたという苦い歴史がある。
過去にポリオの生ワクチンできわめて稀な例として手足にマヒが残る事例が出たことや、子宮頸ガンワクチンによる副反応への懸念から、日本では国民の一部にワクチンに対する不信感のあることがワクチン開発を遅らせたとの指摘もある。しかしワクチン接種を受ける側の私たちが、利益と不利益を勘案するのは当然のことである。
おたふくかぜや百日せき、インフルエンザなどのワクチンは、無料で受けられる国も多いが日本では有料で、他国と比べて接種率が低くなるのは当然だ。
こうしたことをワクチン開発の遅れの理由とするのはお門違いだ。