※本稿は、『医学部進学大百科 2023完全保存版』(プレジデントムック)の一部を再編集したものです。
何千人の命を自分でつくる医療デバイスで救いたい
2022年8月某日。東京・虎ノ門ヒルズ内の会議スペース「CIC Tokyo」には、スタンフォード大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)からの留学生と日本の医学部生たち30人ほどが集まっていた。
イベントの司会を務めたのは、前日留学先のスタンフォードから帰国したばかりの田邉翼さんだ。
「毎年一つ、テーマとなる疾病を決めて、それに向けた医療デバイス(機器)の研究開発に取り組んでいます。今年のテーマは“認知症”。留学中に声をかけたスタンフォード大学のビジネス系の学生やUCLAの技術系の学生たち、そして、日本の医学部生たちを巻き込んで、日本の認知症現場の施設見学やプロトタイプの開発を行っています」(田邉さん)
この日行われていたのは、田邉さんがリーダーを務める学生団体JAIM(Japan America Innovators Program)のキックオフイベントだ。居並ぶネイティブスピーカーたちを相手に、英語で熱く語りかけていた。
医学部生であると同時に、開発者としての顔も持つ田邉さんだが、彼の医学への道は、実は医療に対する強い失望感からスタートしている。
「僕が10歳だったとき、大好きな祖父の心臓の病気が悪化しました。でも当時の医療技術では手の付けようがなく、移植以外の方法がない状態だったのです。おじいちゃん子の僕にとっては、本当にショックな出来事でした。『ああ、お医者さんって病気を治すことができないんだ』って」