選挙ポスターでは、名前も「かばしま」と平仮名で大きく、しかも横書きで目立つようにした。選挙ポスターの名前は縦書きが多いからだ。「郁夫」は小さく添えただけである。

名前は、赤の下地に白抜きで書かれている。遠くからも、よく見えたはずだ。この赤い色にも意味がある。「赤」は、情熱的でエネルギッシュなイメージを与える。これが「青」だと、知性・理性といった冷静沈着な感じになる。

私が東大教授だったというだけで、理性的で厳格なイメージを持たれがちだ。今さら、そうした印象を強める「青」は不要、というよりも逆効果になる。この「赤」は、私の選挙戦の統一カラーとして、ノボリやパンフレット、選挙員のジャンパーなどにも使用した。他候補では「赤」を用いた人はいなかったので、大きな差別化にもなった。

顔写真、名前につぐ選挙ポスターの第3の要素は、スローガンである。「短い言葉で、端的に自分の思いを表し、選挙民の心に残る」もの、と言うのは簡単だが、実際には難しい。私はスローガンの中に、未来志向のメッセージを込めた。「夢」「熊本の可能性、無限大。」「決断」というものだ。どれも未来に向かって積極的に行動するというニュアンスがある。

今回の知事選では、熊本県川辺川ダム建設の是非という大問題があった。私は「半年間ほど時間が欲しい。その間の議論を踏まえて結論を出す」としたが、他の候補者はすべて建設反対を訴えた。これでは、争点にならない。ほかの課題でも、保守系候補者ばかりだから、争点が見えにくかった。そんな中で、私は「夢」を訴えたのである。「逆境にある熊本に夢を取り戻せるか、どうか」。これが争点だという思いが、選挙ポスターの短いスローガンに込められていた。これは成功だった。「夢」が合意争点になったように感じる。

だから選挙中も「夢」「夢」「夢」。県庁で政策を立案するときも、キーワードは「夢」である。

選挙ポスター1枚に、私はこれだけの思いを託していた。このポスターが知事選勝利に果たした役割は大きいものだった。

(樺島弘文=構成 松隈直樹=撮影)