お金がかかりすぎる

女性の高学歴化が未婚化・晩婚化をもたらし、結婚したカップルの中では、結婚時年齢が高ければ子どもの数が減る……という、日本とも共通する問題が起こっている。

また、親になることのストレスの増加や、より少ない子どもに投資する傾向も指摘されており、ある論文では、165人のシンガポール人女性へのインタビューで、子どもの人数を増やす選択肢が取りづらい理由について、次のような点を挙げている(Shirley Hsiao-Li Sun, 2012※3)。

・子育てが長期的なものであるのに対して政府の補助金が一時的でしかないこと
・子どもの学術面での成功を確実にするためにはかなりの金銭的投資が必要だと認識していること
・有給産休を取得できても雇用の保障がないこと
・父親の育休取得についても経済的不安から取得しづらいこと

つまり、シンガポール人にとって、子育てをするうえでの大きなハードルは、「お金がかかること」だと指摘されてきた。塾や習い事に追われることによる時間のやりくりが女性の就労を阻害する可能性もあるが、そもそもこうした外部資源の利用には当然お金がかかる。

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学校は無償なのに?

シンガポールは天然資源を持たず、「人材」が唯一の資源として、教育に力を入れている国でもある。シンガポール市民の場合、一部の宗教学校などを除き、大半の児童・生徒が公立学校に通い、義務教育は無償だ。

では何にお金がかかるのか。小学生の子どもを持つ約40家庭にインタビューを実施し、匿名で処理することを条件に、年収や教育費も支障のない範囲でシートに記入してもらった。

シンガポール人の月収の中央値は4500シンガポール・ドル(約36万円)。一方、インタビューをしたのは、教育競争の様相を知るために中華系の大卒の人が中心で、共働きが多く、世帯収入は1カ月1万シンガポール・ドル(約80万円)を超えるケースが大半だった。

現地新聞『The Straits Times』によれば、シンガポールの家庭では、月収の20%以上を子どもの教育にかけていて、収入が高い人ほどより多くお金をかける傾向にあるという(“Parents: More for kids, less for their own future” 2021.8.8)。

私の調査対象の人たちの月の教育費は、申告ベースで500~2000シンガポール・ドル(約4万~16万円)。習い事などの相場は、ヒアリングしている範囲では、おおむね1時間で30~80シンガポール・ドル(2400~6400円)程度の幅があり、週4回で1種類あたり、月1万~2万円台前後というところか。これを何種類、何人の子どもがやっているかで金額に幅がある。