偵察気球すら撃ち落とせない残念な状況

この点で言えば、侵略とまでは言えない主権の一部侵害、つまり不法に領域に進入するといったグレーゾーン事態に対応するための法律(領域警備法など)の制定を急ぎ、事態が深刻化する前に自衛隊を現地に展開させることができる法整備が急務になる。

また、住民避難の面から言えば、現在の国民保護法制が、有事になってからでないと適用できない点も課題になる。グレーゾーン事態の間に、国民保護法を適用し、住民を円滑に避難させる仕組みも必要になる。

加えて言えば、アメリカ軍が撃墜したことを契機に話題となっている気球への対処だ。自民党は、仙台市など日本の上空でも確認された中国のものと推定される気球について、武器使用基準を改め、再び飛来した場合には撃墜できるよう方針転換した。

自衛隊法84条では、外国の戦闘機など有人機が領空を侵犯した場合、必要な措置を講じることができると規定している。ただ、撃墜は正当防衛と緊急避難の場合に限られてきた。これが見直されれば防衛にはプラスになるが、日本上空には、観測用の気球が数多く飛んでいることも忘れてはならない。

「自衛隊機に乗る際は気を付けながら飛んでいます。怪しい気球と気象観測等の気球を見分けるのは難しく、高度1万5000メートル以上の高さを飛ぶ気球を戦闘機で撃ち落とすには相当なテクニックが必要になります」(防衛省航空幕僚監部の一等空佐)

気球撃墜の難しさは、航空自衛隊トップの井筒俊司航空幕僚長も2月16日の定例記者会見で認めている。事実、アメリカは2月12日、ミシガン州の上空で、F22戦闘機が飛翔物体を撃墜したが、その際、1発目を外している。

ツインエンジンを持つ高出力のF22戦闘機ですら高い高度での撃墜は難しいのだ。自衛隊にはF22戦闘機がないため、F15戦闘機で代替するほかない。

筆者提供
F15戦闘機が並ぶ航空自衛隊新田原基地