台湾侵攻を狙う中国に、日本はどのように対抗するのか。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「岸田首相は軍事力強化を打ち出しているが、有事に至る前に自衛隊を現地に展開させる法整備が課題となる。アメリカのように中国の偵察気球を撃墜できる能力が自衛隊にあるかも疑問だ」という――。
日本政府が掲げる「抑止力」とは何なのか
「日本の防衛政策では抑止と防衛(対処)の区別が明確でなく、抑止の概念や用法に曖昧さがあることが問題点」
これは、2001年から防衛大学校の教授を務めた岩田修一郎氏が、2017年12月に発表した論文「日本の防衛政策と抑止―韓国及びオーストラリアとの比較考察―」(グローバルセキュリティ研究叢書第1号)の一節である。
岩田氏は、この中で、北朝鮮について「弾道ミサイルの完璧な迎撃は困難」と記し、中国に関しても「日本独自の拒否的抑止は限定的」と結んでいる。
岩田氏の指摘から5年余り。国会では、連日、岸田政権が掲げた防衛力強化をめぐる論戦が繰り広げられている。
ただ、「抑止」とは、やられたらやり返す「報復的抑止」なのか、それとも「専守防衛」の名の下に迎撃に徹し、国民の命はシェルターなどを設けて守り抜くという「拒否的抑止」なのか釈然としない。
相手が思いとどまらなければ効果はない
台湾有事や朝鮮半島有事の勃発に備えた防衛策に関しても、防衛費を大幅に積み増しすることで「ようやく1歩を踏み出した」という状態にすぎない。
2月15日、衆議院予算委員会で、持ち時間30分のうち実に25分もの間、防衛に関する持論を展開した自民党の石破茂元幹事長も、その1カ月ほど前、外国特派員協会での記者会見で、次のように語っている。
「日本がどういう力を持てば相手が攻撃を思いとどまるかを考えることが重要。相手が思いとどまらなければ抑止力の効果はありません」
「たとえば100発もミサイルが飛んで来たら、何発か落ちてしまうので、日本の防衛は万全ではありません」
これらの見方は、前述した岩田氏の指摘に共通するものだ。逆を言えば、日本の防衛にはさまざまな面で「大きな穴」がいくつもあるということになる。その事例を3つ紹介する。