台湾有事の最前線、沖縄住民の不安
1つは、政府の説明不足による住民不安という「穴」だ。
沖縄県の先島諸島では、2016年の与那国島を皮切りに、宮古島などにも陸上自衛隊の駐屯地が設置されてきた。そして石垣島にも、3月16日頃、初めて陸上自衛隊の駐屯地が開設され、地対艦ミサイル部隊など570人が駐留することになる。
台湾有事を思えば、台湾や中国に近い島々に駐屯地が置かれるのはやむを得ない。とはいえ、住民の理解が進んでいないという点は大きなネックになりかねない。
「新たに基地が増設される場所は、今の自衛隊駐屯地の近くの私有地です。町側は手が出せません。政府から説明してもらいたいと思っています。住民避難のため大型船が停泊できる港の整備、そして、先日、政府に陳情しましたが、シェルターは不可欠です」(与那国島・嵩西茂則町議会議員)
「住民の関心は、外資系ホテルができるので観光振興に向いていますね。自衛隊が増強されるというのは仕方がないことですが、弾薬庫が住宅地の近くというのは不安です。もちろんシェルターだってほしいです」(宮古島・黒澤秀男エフエムみやこ社長)
「住民投票を求めてきましたが、条例から住民投票に関する項目が削除されてしまいました。これでは声を上げることができません。反撃能力を持ったミサイルが配備されるかどうかはわかりませんが、『どうせ配備されるんだろ?』と半ばあきらめています」(石垣島・金城龍太郎「石垣市住民投票を求める会」代表)
自衛隊駐屯地を強化すれば相手国から標的にされるという「防衛パラドックス」が生じる。それにもかかわらず、住民への詳細な説明がない、相手国から攻撃された場合、空路と海路しか住民の避難ルートがない、などといった現状は、真っ先に改善すべきである。
相手が攻撃に動くまで自衛隊は応戦できない
2つ目は法整備の「穴」だ。
毎年夏、東京・市ヶ谷のホテルでは、防衛相経験者や元自衛隊幹部らが集まり、台湾有事を想定したシミュレーションが実施される。
筆者が取材した2022年8月のシミュレーションでは、安全保障関連法で定めた「事態認定」をめぐり、「これが重要影響事態なのか存立危機事態なのか、それとも武力行使事態なのか」の認定に時間を要し、あくまで机上の話だが、自衛隊が沖縄の海域に展開する前に、海上保安庁や沖縄県警に犠牲者が出た。
現行法では、たとえば尖閣諸島への上陸や先島諸島の島々への攻撃が始まるまで、自衛隊は応戦できないためだ。