駆け付けた娘に罵詈雑言を浴びせた母

入院中の老母は老母で、点滴を打ち、尿道からカテーテルを挿入している状態にもかかわらず、私の顔を見たと同時に「何しに来たの? お前が来ても何の役にも立たないのに」と、驚くようなことを言い、私を戸惑わせる。

いくら気が強いと言っても、娘に対して、しかも入院先に駆けつけた人間に対して、不用意にこうした言葉を投げつけるほど自制が利かなくなってしまったのだろうか……。このとき、これからの母との関わりは一筋縄ではいかないだろうと予兆のようなものを感じ、思わず首筋が寒くなった。

しかも、これだけにとどまらないのである。

「カラオケ教室の月謝を払わないといけないから、いつもカラオケに持って行くバッグをすぐに取ってきて」

「身体が痒いから薬屋さんで痒み止めを買ってきて」

あなたは一体何様ですか?

病室でなかったら、そう声を荒らげたくなるほどの偉そうな態度で命令してくる。

いくら病人とは言え、あまりに自己中心的な言動に、はあ……、この人どうしちゃったの? 驚きを通り越して呆気にとられる。

青筋立てて怒り狂う母の姿に認知症を確信

「いつ退院できるかわからないんだし、カラオケの月謝は退院してからだっていいんじゃないの」

「ここは総合病院なんだから、痒ければ看護師さんに相談して、塗り薬を処方してもらったら」

極力冷静に説得を試みるも、全く以て聞く耳を持たない。それどころか、

「四の五の言ってる暇があったら、さっさと買ってきなさいよね」

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青筋を立ててぶち切れる始末。兄からの電話を受け、取るものも取りあえず駆けつけたというのに、それはないでしょ! 怒りが腹の底からこみ上げてくる。

今日この日まで、絶えない言い争いの原因を作っているのは気が短い老父なのだろうと勝手に思っていた。だが、視線の先が定まらない強ばった表情と人の気持ちを逆なでするような老母の言動を目の当たりにし、こういう言い方をされたら老父でなくてもけんかになるわと考えを改める。

そして、これは間違いなく認知症の初期症状だろうと太いため息が漏れた。