経営者を相互に監視する機能も

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持ち合いのメリットとデメリット

たしかに、持ち合いは株主の利益にそぐわないと思われる側面もある。まず、持ち合いは、株主の必須の権利である議決権を形骸化させる恐れがある。株式は、その所有者に、利益分配を受ける権利、清算後の残余財産の分配を受ける権利と並んで、株主総会で議決権を行使する権利という3つの権利を与える証券である。このうちの第三の権利が形骸化すれば、株主の権利が侵害されることになる。とくに、持ち合い株式の比率が高まれば、持ち合いに参加していない株主の権利は侵害されてしまう。持ち合い株の比率が過半数を超えている場合には、一般株主の議決権はないと考えてもよいほどだ。第二に、持ち合いは、市場における価格形成をゆがめる可能性がある。市場では、それぞれの参加者が自己の利益だけを考えて行動する場合に、もっとも正しい価格が形成される。それ以外の目的を持つ参加者が入ってくると価格がゆがめられる可能性がある。第三に、かつて二木雄策教授が指摘されたことだが、持ち合いは配当の過剰支払いをもたらす可能性がある。それが株主にとってデメリットかどうかは議論の余地があるが、配当政策をゆがめる可能性は否定できない。

以上のような欠点ばかりでなく、持ち合いは、株主にメリットを与えることもある。

第一に、持ち合いは、経営者の相互監視機構としての性質を持っている。持ち合い関係に入るに先だって、経営者は、相手側企業の評価を行う。これまでに良い経営が行われており、今後も良い経営が行われるかどうかを評価し、信頼できる企業と持ち合い関係を結ぼうとする。良い経営が行えない企業と持ち合い関係を持てば、持ち合い関係は持続できないからである。このような相互評価は、持ち合い関係が形成されてからも継続的に行われている。一般の株主とは違って、取引関係あるいは比較的近い関係にある企業の経営者の間での相互監視は、より効果的である。互いにより良い情報を持っているし、評価する側もされる側も経営のプロであるから情報の交換は効果的だし、それをもとに行われる評価は正確である。多くの場合、市場での評価も参照される。一般の株主は、このような経営のプロに監視と評価を委ねることによって利益を得ることができる。それだけではなく、その評価の結果を参照することによって、より的確な判断をすることもできる。持ち合い関係を維持できなくなったということは、一般株主にも重要な情報となるからである。

株主にとっての第二のメリットは市場での流通株を減らすという効果である。持ち合いは自社株買いと同じ効果を持つのである。持ち合いの第三のメリットは、会社の長期的な利益とはつながらない経営を行う可能性を持つ敵対的買収から会社を守るという効果も持っている。このような買収防衛は、企業を取り巻く多様なステークホールダーの利益になり、最終的には、株主全体の利益にもつながる。

第四に持ち合いは、株主のモラルハザードを抑える効果を持つ。株主は、有限責任の所有者である。有限責任とは、出資分以上に会社の負債支払いに対しては責任を負わないという責任の限定である。この有限責任は、株主のモラルハザードを生む可能性がある。会社の利益の過剰な配分を要求してしまう可能性があることである。会社に利益を留保しておけば、それは負債の支払いに使えるが、利益を株主の手元に配当として支払ってしまえば、それは負債の返済に使われることはない。このモラルハザードを引き起こす典型は、グリーンメーラーである。

以上の持ち合いのメリットを引き出すためには、持ち合い関係は上手にマネジされなければならない。互いの経営状態についての継続的な学習が必要だし、持ち合い株の比率が過大にならないようにすることも必要である。銀行を中心とする持ち合いがうまく機能しなくなって、銀行を規律づけることができなくなったのは、銀行の発行済み株式の中で持ち合い株式の比率があまりにも高まりすぎたからである。