経済情報を独占しマーケットを動かす
300万部の部数を誇る日経と比較して、時事通信社は、経営基盤が安定していない。D氏は続ける。
「日経は1日5万円はするハイヤーに乗って取材ですよ。僕は終電を気にしながらの取材なのに、うらやましくてしょうがない。遅かれ早かれ社長が交代すること自体は決まっているので、実際の発表より数日早いだけの報道に、どれほどの意味があるか僕にはわかりません。しかし、日経が経済情報をほぼ独占し、マーケットが動く以上、投資家は日経を購読し、(リアルタイムで経済情報を報道する日経の電子メディア)QUICK会員にならざるをえないのです。きっとその会員費は、日経記者の潤沢なハイヤー代に消えているんです」
毎日新聞記者E氏も、日経の経済記事のすごさを肌で感じると言う。
「経済に関しては、日経は他の大手新聞の10倍ぐらいの取材をしていると感じます。社長交代の報道をしても世間にはあまり影響のない場合も多く、スクープと胸を張れるわけではないでしょう。しかし、毎日が、もし大きな会社の社長交代をキャッチできたら、大きく載せると思います。それぐらい質量ともに圧倒する日経を出し抜くというのは、どこの新聞の経済部でも悲願です」
取材の分厚さのほかにも、スクープをとれる要因があると、前出の時事通信記者D氏は言う。
「商社などは、いくら情報を発信しても、一般紙は小さな記事での報道しかしてくれないと思っているところが多いのです。そこに日経が一面で『商社、海外から配当1兆円』なんて記事を大きく載せます。商社がただの投資ファンドに成り下がっただけでは? という疑問が、僕には湧くのですが、そこについて、日経はあまり触れません。
こんな一面記事を書いてもらったら、商社は喜んで『これからは日経新聞にだけ情報を流そう』という気持ちになってしまうんです。ですから、例えば企業が15時に発表する新規事業についての会見も、日経記者にのみ13時に内容を知らせる。『15時、記者発表』のはずが、なぜか日経の夕刊には詳細な記事が載っているのです」
さらに、霞が関の役人とも深い関係が指摘されている。日経記者F氏は話す。
「経済産業省と日経との関係は、相当深いものがあります。経産省は、予算も何もついてないときに、日経にアドバルーン記事を載せて、こんなに世論が盛り上がっていますと財務省との交渉材料にするのです。経産省の役人は、日経に何回書いてもらったかで評価が決まる。反対に、日経は日曜などの紙面にするネタがないときに、そのアドバルーン記事を掲載します。実際に実現するかは別にして、紙面に躍る金額が大きいだけに、一面でも格好がつきます」