すき焼きを食べていると幸せな気分になる理由

ところで、脳内のセロトニンという神経伝達物質が減るとうつ病になりやすいことがわかっています。このセロトニンも加齢とともに減ってきますから、たとえうつ病にはならなくても意欲が低下したり、感情の老化が起こります。

そこでうつ病の治療薬としてよく使われるようになったのが、SSRIという坑うつ剤ですが、この薬はかんたんにいえば脳内のセロトニン濃度を高める働きをします。もう少し、詳しく説明してみましょう。

うつ病というのは細胞レベルで説明しますと、シナプスという脳の神経細胞の接合部で、神経伝達物質の受け渡しがうまくいかなくなっている状態と考えられています。つまり、セロトニンが放出されてもレセプターが受け止めてくれないのです。

それで気分が停滞したり、やる気がなくなったりすると考えられるのですが、レセプターが受け止めてくれないセロトニンは放出した神経細胞にふたたび取り込まれてしまいます。

ところがこのSSRIという薬は、そこで再取り込みをされないようにブロックする働きがあるので、結果としてシナプス内のセロトニン濃度が高くなって刺激が伝達されます。

ただし放出されるセロトニンが増えるわけではありませんから、少ないセロトニンの濃度が多少高まっても絶対量そのものが少なければ、うつ状態はなかなか改善されません。

セロトニンの原料は肉類に含まれるトリプトファンです。

写真=iStock.com/Yagi-Studio
※写真はイメージです

それから「脂っこいものはコレステロール値が高いから身体に悪い」と思われがちですが、わたしのような精神科医の立場では、コレステロールにはセロトニンを脳に運ぶ役割があると考えられています。

うつ病の人を診察してみると、コレステロール値の高い人は回復しやすいのですが、低い人はなかなかよくならないからです。

つまり、肉料理をしっかり食べている人のほうが、うつにはなりにくいのです。

セロトニンは「幸せ物質」ともいわれています。

脳内にセロトニンが満ちている人は、なんとなく幸福感に包まれます。すき焼きを食べていると幸せな気分になったり、焼き肉を食べていると元気が湧いてくるのも理由があるのです。

おカネを使うことで自己愛が満たされる

今の60代が子どものころは、めったにないことですが父親が家族を引き連れて美味しいものをご馳走してくれました。

寿司とか、レストランのトンカツやステーキ、専門店のすき焼きなどです。

「ここの料理はうまいぞ」
「今日は好きなものを頼みなさい」

そういって父親も満足そうにビールや日本酒を飲みます。

ああいうのって、気分よかったんだろうなと思います。

母親もご機嫌ですし、子どもたちも「やっぱりお父さんは偉いなあ」と尊敬してくれるからです。

毎日のご飯やお弁当を作ってくれるのは母親でも、ここぞというときにふだんは食べられないような美味しい料理をご馳走してくれるのはお父さん! そう思ってくれるからです。

おカネを使うことのメリットに、そういった自己愛が満たされるということがあります。

今の60代はその後、社会に出てバブル景気と出合い、高級な店で美味しい料理やお酒を飲むチャンスに恵まれました。あれはあれで気分がよかったはずです。「おカネを使うっていいもんだなあ」と実感できたのです。