LCCがマネできない戦略とは何か

アメーバ経営とは、会社の組織を小さな損益単位に分けて、その損益をスピーディーに現場にフィードバックし、それをもとに合理的な判断を行う全員参加の経営管理制度である。

アメーバ経営の効果は2つのレベルで生み出される。1つは損益計算単位であるアメーバのレベルでの合理的な経営。もう1つは、複数のアメーバを統括するレベルでの合理的経営である。

個々のアメーバのレベルでも利益を増やす工夫はできる。現場で気付く無駄な経費を削るというのが手っ取り早い方法だ。最近は、羽田空港が混雑しているとき、伊丹空港で離陸時間を遅らせるという対応が取られることがある。上空で待機するより、地上で待機するほうが燃料の節約になるのだろう。冷房の効率を上げるために地上にいるときは窓のシェードを閉めるという工夫も行われるようになってきた。

複数のアメーバを統括するレベルでの合理的経営での鍵は資源配分と仕事の配分の合理化である。利益率の高いアメーバの仕事を増やす、逆に利益率の低いアメーバの仕事を減らすというような資源配分の変更である。上で述べた機材の変更がこの例である。さらにその上のレベルには、どのような資源に投資するかの投資戦略のレベルがある。低価格航空会社(LCC)は、単一の機種の機材を使うという投資戦略を採用することが多い。人材育成のコストを下げることができるからだ。逆に、JALのような基幹航空会社は、大小・多種類の機材を持っている。そうすることによって需要の多寡に応じて機材を使い分けることができるからである。

個々のアメーバのレベルと、それより上のレベルとでは、利益を見る視点も異なってくる。あるアメーバの利益が高いというのは、そのアメーバにとってよいことだが、その上のレベルでは話はそれほど単純ではない。あるアメーバの利益率が高いというのは、そのアメーバでよい経営が行われているということを意味するだけではない。同時に、機会損失が発生している可能性があるということをも意味する。もっと多くの資源をそのアメーバに投入すれば、もっと多くの利益が得られていたはずだと考える視点が必要である。

機材を機動的に使い分けるのは実際にはかなり難しい仕事である。機材によって操縦できるパイロットのチームが異なる。客室乗務員の数も違う。かなり柔軟なチーム編成を行うことができなければ、機動的な機材の変更はできない。基幹航空会社では、この機動性が、長期的な意味を持つ可能性がある。この機動力がなければ、繁忙期にかなりの能力不足が起こり、閑散期には、かなりの余剰能力が発生することになる。

このような機材の変更は、利益でなく、空席の比率を見ても判断できるかもしれない。しかし、利益を見るからこそできることもある。営業部門が安売りをして空席を埋めようとする場合に、利益を見れば、どの程度まで値段を下げてもよいかを判断することができる。

基幹航空会社は、内外で低価格航空会社と競走しなければならなくなっている。そのときに、基幹航空会社はLCCと同じ戦略を取ることはできない。基幹航空会社が取らざるをえない戦略、基幹航空会社にしか取れない戦略を採用する必要がある。アメーバ経営は、その戦略を実行するための組織能力をつけるのに貢献している。その意味で、JALの再生は、巡航高度に達したといえるかもしれない。