登校刺激をすれば、学校に戻ってくるわけではない

●事例2 親の愛情と機転で登校できるようになったBさん(低学年女子)

低学年のBさんは、朝になるとぐずり出し、学校に行かないと言い出す。母親が「友達のこと?」「勉強のこと?」とあれこれ聞いても、一向に原因がわからない。担任も手を尽くして調べてみたが、学級内にはBさんへのいじめもなく、仲良しの子もいて本人の居場所がないわけでもない。これまでの学習状況も良好である。

松尾英明『不親切教師のススメ』(さくら社)

しばらく不登校が続いたが、母親が一緒に登校に付き添うことで、何とか登校できることがあった。ただ母親も仕事が大変忙しく、いつまでもこれを続けられない。

そこで一考を案じたのが「お守りクイズ大作戦」。お守りと称した折り畳んだ紙の中には、母親自作のクイズが書かれている。「これはお母さんの手作りのお守り。中にクイズがあるから、途中で開けて見ていいよ。学校に着くまでに正解できるかな? 帰ったらお母さんに答えを教えてね」と言って送り出した。クイズ好きの子でこれが大成功。やがて、一緒に通う友達とクイズの答えを考えながら登校できるようになった。

この事例は、母親の大変細かい配慮が功を奏している。この子供が不登校を選択した理由は「お母さんと離れたくない」である。低学年に多い「母子分離不安」が原因として考えられる。この不安を払拭するために、母親は「いつでもあなたを大切に思っているし、一緒にいるよ」というメッセージを「お守り」という形で子供に送った。

子供は母親から離れる不安が和らぎ、かつ「クイズをする」という課題によってあれこれ悩みがちな思考をそちらに使い、寂しいと思う気もちを逸らすことができたと考えられる。

つまり「離れていても親は自分を思ってくれている」という安心感を子供がもてない限り、外に出よう、登校しようという選択肢をとらない。これは多くの家庭にとってはなかなか悩ましいところだが、この事例のように家から出ること自体に不安がある場合であれば、学校側がどんなに努力をしても、ほとんど成果は出ないだろう。