【各論4】「病院ランキング」の死亡率を低く見せるデータ処理のカラクリ

雑誌の医療特集で見かける病院ランキングの「死亡率」は、病院選びの基準になるでしょう。大病院A、小病院Bという2つの病院があって、手術を受けた入院患者の死亡率がAは3.3%、Bは2.2%だったとしたら、皆さんは「入院するなら、小さい病院でもBがいい」と思うはず。

ところが、AとBの患者を、軽症患者と重症患者の集団に分割してみると、死亡率は軽症患者の場合、Bの1.1%に対してAは0.9%、重症患者の場合、Bの5.2%に対してAは4.3%と、ともにAのほうが死亡率は低いかもしれません。なぜなら、大病院であるAは重症患者が多い一方で、小病院であるBは軽症患者が多く、患者の割合が偏っていたからです。軽症患者の数は、AもBも大差ありませんでしたが、重症患者の数は、Aのほうが圧倒的に多い場合もあります。

重症患者は死亡率が高いと推定され、重症患者の割合が大きくなれば、患者全体の死亡率も上がるはず。一方、AはBよりも設備、人材などが充実しているとも推定され、軽症患者では死亡率が低いのでしょう。その結果、集団全体では「Aのほうが危険」なのに、集団を分割したら、「Aのほうが安心」という正反対の仮説が成立したのです。

このように、「集団全体に成立する仮説と、集団を分割したときに成立する仮説が、正反対になること」は、この現象を見つけた英国の統計学者の名前を取って、「シンプソンのパラドックス」と呼ばれています。この現象は、集団の個体数を考慮せずに、無闇にデータを分割したり、まとめることのリスクを示唆しているともいえます。

集計方法を変えればランキングを上げられる

集団を分割する際、軽症患者と重症患者のように患者の症状で分割するのではなく、性別や年齢などによって集団を分割したとすると、分割した集団の死亡率はそれぞれ異なる数値になるでしょう。つまり、シンプソンのパラドックスを使って、集団全体をうまく分割すれば、「自分にとって都合のいい数字」を、意図的に導き出すことも可能なのです。

大病院Aの院長なら、軽症患者、重症患者ごとの死亡率を併用して、「軽症でも、重症でも死亡率が低い」と、イメージアップのPRをするかもしれません。反対に、小病院Bの院長は、入院患者全体の死亡率を使って、「大病院Aよりも死亡率が低くて安心」と、印象操作をしようとするかもしれません。

私は、厚生労働省在職中に多くの医療従事者の指導を受け、彼らに感謝しているし、尊敬もしています。とはいえ、病院などの医療機関や医師などの医療従事者は、自分たちの組織の経営や自分の生活のためにも仕事をしているのです。病院にとって都合のいい数字だけを見せることがあっても、むしろ自然なことだといえるかもしれません。

これまで見てきた厚労省の役人や医療従事者のように、社会的な責務を負っている人が提示する数字でも、安易に信じてはいけません。数字の裏の「隠された狙い」を見抜く思考トレーニングが必要なのです。

(構成=野澤正毅 図版作成=大橋昭一)
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