子供を「守る」親と「見守る」親

チーム総監督11年目の棚原徹(55)はおばちゃんの三男。4男1女の3番目だ。4歳の頃に花火が右目に当たる不慮の事故以降、右目の視力が著しく悪い。それでもおばちゃんは5歳の徹をチームに入れ、他の子たちと一緒に練習させた。手加減は一切なしで見守った。

時々試合に出る補欠選手のまま卒部。高校まで野球を続けたが、卒業後はチームとの接点は皆無だった。後に転居で吹田市内に戻り、長男が小学4年でチームに入部後、徹はひょんなことから3年のチームコーチを始めた。

当時ある母親が自分の子を退部させると言いに来た。練習も頑張っているのに試合に一度も出してもらえない、もう我慢できませんと。

「こういう親は今も多いんですが、おばちゃん(安子)がえらい剣幕で怒ったんです。『あんた以上に悔しい思いをしているのはあの子やろ! それでも守備のときはベンチから、攻撃のときには一塁コーチとして大きな声で、仲間に声援や指示を送ってくれている。

試合に出たい気持ちをこらえて、少しでもチームの力になろうとしてくれている、あの子の頑張りがあんたには見えてへんのか。子供が我慢を重ねているのに、親のあんたが我慢できひんとは、一体どういうことなんや!』と」(徹)

指導者としてのおばちゃんの本気にそばで初めて触れたことが、徹が少年野球に本腰を入れてみようと決心した理由の一つ。従来は子供の親たちが年度ごとに監督やコーチを務めていたのをやめ、徹はチームOBやその父親たち約30人を監督やコーチにすえ、おばちゃんの役割を組織として分担できる仕組みに移行してきた。

撮影=森本真哉
チーム総監督11年目の棚原徹(55)はおばちゃんの三男

選手9人で10対0で完勝する野球ではダメなんですと、徹は続けた。

「たとえ10対9まで追い上げられても、控え選手全員を出場させ、経験を積ませる洞察力と度量が監督には求められます。打撃と守備は頼りなくても足が速ければ代走に起用し、その子が追加点のホームを踏めばハイタッチして、『次は守備を頑張ろな』と言えば、子供は自発的な努力を惜しまなくなる。そんな経験を積ませるのがウチの野球です」

冒頭の1回戦でも選手14人全員を出場させていた。

一方のおばちゃんは、120人もの部員がいるから、1、2人辞めてもかまわないとはけっして考えない。

「子供たちは世の中の預りものやから、子供をチームから辞めさせようとする親御さんにも、私は必死のパッチで立ち向かっていくんです」

小学生時代は補欠でも、中学や高校でレギュラーになる選手も多い。社会に出れば、努力をしても試合に出られない以上に理不尽なことが待ちうけている。徹は言う。

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「多くの親御さんは、思うようにいかない現実に直面すると、『うちの子がかわいそうや』という気持ちが先走り、子供を抱え込んで守ろうとしてしまう。でも、子供が頑張っている以上、親も距離をとって見守るべきなんです。その『守る』と『見守る』の使い分けが苦手ですね」

親の過干渉を減らし、子離れと親離れをうながして社会に出ても苦境に屈しない、自立心旺盛な20歳に育て上げる。小学生の生活力育成と野球技術の向上を両輪に、チームが見すえる目線の長い人間教育がそこにある。コロナ禍で3年前からできていないが、中高生のチームOBをおばちゃん宅に招いてクリスマス会を毎年開催。卒部生たちのその後にも目を配ってきた。

1200人を超える子供たちを、50年以上も見守ってきたおばちゃんは、「大人が考えている以上に子供たちは賢いし、高い能力を秘めているんやからね」と締めくくった。(文中敬称略)

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