政府の再建政策では抜本的な変革は実現できない
大きな改革は、企業の再建でなく、企業の新陳代謝によってしか進まない。ところが、官庁が主導して関係企業や金融機関が協議して決める再建は、これまでの日本的なビジネスモデルと産業構造を維持することを目的にしている。だから、抜本的な変革が実現できない。
このような官民協調体制が、日本の産業構造の変革を阻んできたのだ。この結果、日本の産業構造の基本的な仕組みと企業のビジネスモデルは、ほとんど変わっていない。日本では、企業の消滅を伴う改革は望ましくないと考えられてきた。その大きな理由は、雇用の確保だ。
しかし企業が残って雇用を維持し続けても、全体としての雇用情勢は大きく変わっている。非正規雇用が全体の4割にもなっている。新しい産業が成長して雇用機会を生み出していくしか、答えはない。
半導体事業や液晶事業不振のもともとの原因は、日本メーカーの新製品開発能力が低下し、競争力のある製品をつくり出せなくなったことだ。エルピーダメモリの場合について見れば、DRAMはもともと付加価値が低い製品だった。ジャパンディスプレイの売上高も、2016年までは、iPhoneの出荷台数の成長とともに増大していた。
ところが、16年以降、iPhoneはパネルに有機ELを採用し始めた。しかし、JDIは有機ELの準備がまったくできていなかった。こうしたことの結果、16年をピークに売上高が激減したのだ。
日本経済が抱えている問題は、金融政策では対処できない
半導体では、経営者が大規模投資を決断できなかったことが、その後の不振の原因といわれる。しかし、液晶の場合には、大規模な投資を行った。特にシャープの場合は、「世界の亀山モデル」といわれる垂直統合モデル(液晶パネルの生産から液晶テレビの組立までを同一工場内で行う)を展開した。
ところが、結局は経営破綻して、台湾の鴻海(ホンハイ)の傘下に入らざるを得なくなった。厳重な情報管理をして液晶の技術を守るとしていたが、いまになってみれば、液晶はコモディティ(一般的な商品で、品質で差別化できないため、価格競争せざるを得ないもの)でしかなかったのだ。
日本経済に大きな影響を与えたのは、世界経済の構造変化だ。これは、IT(情報通信技術)の進展と新興国の工業化によってもたらされたものであり、供給面で起きた変化だ。したがって、金融政策では対処できない問題である。
金融緩和をすれば円安になる。そして、円安が進行している間は企業利益が増加して株価が上がる。しかし、これは一時的現象にすぎない。それにもかかわらず、金融緩和で円安にすること、それによって「デフレ脱却」をすることが目的とされてきた。1993年以降、断続的に円売り・ドル買い介入が行われていたが、これがその後の量的金融緩和と大規模な為替介入につながっていった。
日本経済は、いまに至るまで、この路線上の経済政策を続けている。アベノミクスも異次元金融緩和も、その一環だ。