年金未払いから入籍
不穏な事態が発生したのは2014年の冬のことだ。以前勤務していた商社からマンションのコンシェルジュに転職していた50歳の妻は、同僚から嫌なことを言われる日が続き、ひどいときにはマンションの一室に軟禁されたこともあり、ストレスから不眠状態に。
「職場でいじめに遭っている」と相談を受けた河津さんが「上司に相談した? それでもだめなら辞めたら?」とアドバイスすると、しばらくして妻は退社。
コンシェルジュの仕事を辞めてから、すっかり勤労意欲を失ってしまった妻は、それ以降、仕事に就こうとしなくなった。気分転換が必要だと思った河津さんは、外食や一泊旅行に誘い、「しばらくゆっくりすればいいよ」と言っていた。
専業主婦になった妻は、家で過ごすことがほとんどとなり、2015年になると、だんだん同じことを何度も繰り返したずねることが増え、河津さんは気になり始める。
2016年に入ると、妻(当時52歳)はささいなことでキレて、大げんかに発展することが増えた。
「ささいなことというのは、例えば私が、『昨日、電車の中で外人さんに話しかけられてさぁ……』と話出した瞬間に、『ガイジン? 差別的なこと言って。外国人でしょう?』と声を荒らげるようなことです。こうしたことは一緒に暮らし始めた頃からありましたが、この頃から頻度が増えました」
同じ質問を何度も繰り返すことも相変わらず多かったため、河津さんは更年期障害を疑う。
2017年春には、夫婦で日帰り温泉に行ったところ、待ち合わせ時間になっても一向に妻が女湯から出てこない。河津さんは心配になったが、40分ほど遅れて出てきた妻は、少しも悪びれる様子もなかった。
翌年夏には、夫婦で青森旅行へ行く予定だったが、妻は、前日の夜になっても持って行く着替えの服が決まらない。いつもパッキングは早い方なのに、2〜3時間経っても決まらなかったため、見かねた河津さんがすべて選んだ。
話は前後するが、2016年12月、河津さんは転籍となっていた出版社の関連会社が解散となり、設計事務所に転職。その翌年、妻がマンションコンシェルジュを辞めてから約3年にわたり、国民年金を納めていなかったことが発覚していた。その頃から、おかしいと思う状況が増えていたのだ。
「妻はこれまで、経理・総務部門の勤務経験が多く、会社の年金も扱っていたため、『裏技で免除の手続をした』と言い張っていましたが、ここ数年間の妻を見てきて、『このままではマズい』と思った私は、入籍することに決めました。このときはまだ、更年期障害か認知症かの判別はついていませんでしたが、生活上の支障を回避するには、入籍するしかないと考えたからです」
同じ2018年12月、入籍。河津さん57歳、妻54歳のことだった。夫婦別姓を主張していたはずの妻は、「早く籍入れれば良かったのに……」と、ひとごとのような口ぶり。年金の未納分は、さかのぼって払える期間のものはすべて河津さんが払い込んだ。