性犯罪の多くは家族など親密な関係間で起こっている

「誤解されやすい事項3」は、「加害者は発覚を恐れて見知らぬ被害者を選ぶ」という誤解である。よく取り上げられる「レイプ神話」として、暗い夜道で見知らぬ犯人から女性がむりやり襲われたといったストーリーがあるが、性犯罪加害者の多くは身近にいる信頼されている人々である。

つまり実際には、親密な関係間、家族間のほうが、性犯罪の発生率は高いのである。しかし、親密な関係であるほど、被害者は「こんなことで訴えて関係を悪くしたくない」と考えるだろうし、加害者もそうした被害者心理に付け込み、「こんなことでは訴えないだろう」などと高をくくっている。これが「誤解されやすい事項4」にも挙げたように、性犯罪はすぐに発覚するどころか、ほとんどが暗数となっている大きな理由のひとつなのである。

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性加害者に潜む知られざる病理を理解するために

では、こうした加害者のこころのなかでは何が起こっているのであろうか。ここではいくつかの要因のなかから3つを取り上げて概説解説する。

図表=筆者作成

1)「相手は嫌がっていない」などと、認知がゆがんでいる

ひとつめは図表1に示した「誤解されやすい4つの事項」のすべてにも関係している「認知のゆがみ」である。認知のゆがみには大きく分けて「否認」と「最小化」がある。「否認」とは、例えば「相手から誘ってきたのに、こんなことになり迷惑だ」などというように自身を被害者として位置づけていたり、「むこうもその気だった」「相手の嫌がることはしていない」などと相手が非同意であったことを認めなかったり、「相手は傷ついていない」とか「いつまでも恨んだりはしない」といったように相手の傷つきを認めなかったり、さらには「他の人も同じようなことをやっている」などと自分の行動がもたらす影響を軽視し楽観的に捉えすぎるといったパターンがある。

「接客業の女性はこれぐらいで傷つかない」と考える「最小化」

次に、「最小化」とはどんな傾向を指すのだろう。これは、たとえば「少しぐらいなら大丈夫だろう」とか「この程度なら傷つかない」といった自身の行動の結果を過小評価したり、「水商売をやっているんだから傷つくことはない」、「嫌だと言っていても実際にはそれほど嫌がってはいないだろう」などと相手の気持ちや感情を理解していないパターンがある。さらには、「お金を払っているのだから何をやってもいい」「普段から面倒をみてあげているのだから、これくらいはいいだろう」といった自分が支配者であるかのような所有者意識をもっている場合もある。

これらの「否認」と「最小化」は、どちらか一方だけというよりも両方を持ち合わせており、状況に応じてそれらの誤った認知を都合よく変容させて自己の行動を合理化しているのである。

図表=筆者作成