グループ内でも忖度せずに競合し合う

【田中】6月におうかがいした際に、日本最大級の店舗の視察をさせていただきましたが、非常に特徴的だと思ったのは同じグループの中でも同じ業態が並び、互いに忖度そんたくせずに競合し合っている点です。他のグループであればMD(商品戦略)を組み直すなどの対策をしているかと思いますが、そこもベイシアならではの特徴でしょうか。

【相木】そこもハリネズミ経営の考えに近いと思います。グループ内においても、経済合理性が高くない名ばかりのシナジーは追い求めていません。むしろ、自由にのびのびと一社一社が尖っていくことがグループの教えです。ですので、場合によっては商品が重複することもあります。

お客様にとって一番良いものを磨き続ける。それによってハリネズミとして強い企業グループを作っていけるのだと思います。誤解のないように申し上げますと、先端技術やセキュリティなど、グループで連携した方がいいことはいろいろな形でトップが集まり、情報共有を進めています。

見習いたい「20年前のツタヤ」の販促活動

【田中】では相木社長のツタヤオンライン時代のことについてお話をうかがいます。もともとDVD業界はリアル店舗を展開していましたが、Netflixがオンラインで顧客とつながり、話題作・人気作だけではなく、過去の名作も含めてロングテールで倉庫から顧客にDVDを届けるようになりました。それがNetflix1.0の時代です。

当時のツタヤやブロックバスターが行っていたようなデータドリブンの日本企業は、現在でも少ないでしょう。当時のツタヤは、顧客とオンラインではつながっていませんでしたが、顧客の情報をもとにデータドリブンによるマーケティングを展開していたと思います。ツタヤの創業者のお一人は、ツタヤでの経験を基に、スーパー銭湯業界に会員制を導入し、「極楽湯」をフランチャイズ展開されていますよね。では、相木社長にとって、ツタヤで培ったデータドリブンの経験にはどのようなものがありますか?

ベイシアの相木孝仁代表取締役社長

【相木】もう20年ほど前の話ですし、私の貢献はごく一部ですが、私はツタヤオンラインで経営企画やマーケティングを担当していました。先進的だったのは、顧客のオンライン会員化を店舗で推進していたことです。今でこそ当たり前ですが、当時これをやっている企業は他にはありませんでした。

そのロジックは、オンライン会員化によって、会員のみに半額クーポンを発行するキャンペーンを打つことができ、会員の来店頻度が上がることです。そのために携帯電話を持っているお客様に入会を促進したり、入会に手間取るお客様のサポートをして、店舗としてオンライン会員化を推進していました。それを徹底することで会員規模を増加させ、来店頻度とレンタル本数を大きく伸ばすことに成功しました。

この体験はもの凄いことだと思います。当時のツタヤは店長の裁量で個別にクーポンを配信できる仕組みになっていましたが、現状のベイシアではまだ実現できていません。20年前からその仕組みを持っている企業はほぼなかったと思います。店舗の人間がオーナーシップを持って、販促活動にコストをかけてクーポンを配信できることは凄いことです。ツタヤで学んだことは意識しなくとも、自分の血と肉になっていると思います。

【田中】20年前とはいえ、当時のツタヤが実現できていることを今実現できている会社は非常に少ないと思いますし、Netflixと比較するともう一手、二手打っていただきたかったと思いつつも、そこで培ったデータドリブンのノウハウは、その後の仕事に役立っているかと思います。