親の愛に飢えていたチャールズ
女王の夫・フィリップ王配も、内気で繊細なチャールズに厳しかった。ギリシャとデンマーク王家の血を引く生まれながら、財産もなく両親の愛を知らずに育ったフィリップ王配は、叩きあげで海軍中佐にまで出世した軍人。骨の髄まで軍人気質、かつマッチョな性格で、チャールズにも同様に強くあってほしいと願っていた。
教育面もしかりだ。チャールズは上流階級の子弟が通うイートン校への入学を望んでいたが、フィリップ王配は自身の出身校であるスコットランドのゴードンストウン校に無理やり送り込む。こちらは上品なイートン校と違って、中流階級の子弟が多くバンカラな校風。弱々しくておとなしいチャールズは同級生から相当いじめられたらしく、当時のゴードンストウンを「監獄のようだった」と彼はコメントしている。
周囲に忖度せずにはっきりとモノをいうフィリップ王配は、自分に似て活発な「アンがお気に入りだ」と公言していたし、女王は女王で、次男のアンドリューがお気に入りというのは、暗黙の了解だった。チャールズは、親に認められたい、愛されたいという気持ちが大きかったのではないか。
愛していますか? の問いに、微妙な反応のチャールズ
だからこそ、おおらかな気持ちでチャールズを包み込んでくれたカミラに惹かれたのは、想像に難くない。
「しかし、次期国王の結婚相手として当時のカミラ妃はふさわしくないと思われていました。英国王室は、ドイツ、デンマークなどの外国から妃や王配候補を迎えることがそれまで多かったのです。例をあげると、ビクトリア女王の夫のアルバート王配やエリザベス女王の祖母はドイツ系でした。チャールズ国王の妃にも外国のお姫様が望まれていましたが、その時に釣り合う女性がいなかった。20世紀はヨーロッパの王室がどんどんなくなっていましたしね。それで国内の貴族のお嬢様たちに妃候補として白羽の矢が立ったわけです」
と語るのは、イギリスで30年以上にわたりガイドを行なっている塩田まみさん。イギリスの近世史に非常に詳しい。
「カミラ妃は、父親が陸軍少佐で母親は男爵家の出身ですが、身分的にはかなり見劣りがします。しかもカミラ妃はのちに結婚した社交界のモテ男、アンドリュー・パーカー・ボウルズとも交際していましたから、男性との交際歴も豊富。そういう女性は妃にはもってのほかです。しかもちょっとごつい感じの男顔で、正直、美人とは言い難いタイプ……」(塩田さん)
一方のダイアナは、王室とも関係が深いスペンサー伯爵家の令嬢であり、異性と交際歴がない無垢な19歳(婚約当時)。素晴らしい容姿の持ち主で皇太子妃としても華がある。ダイアナとの結婚を促したのはフィリップ王配とも、父親のように尊敬していた大叔父ルイス・マウントバッテン卿とも言われる。学校も結婚も、意に染まないものを押し付けられたチャールズの気持ちはいかばかりか……。
それでも、IRA(アイルランド共和軍)のテロによってルイス・マウントバッテン卿が暗殺されたショックを慰めたのは、ダイアナだった。
チャールズは「ダイアナをそのうち愛せるようになると思う」と友人に漏らしていたと伝えられている。しかし、婚約会見で「お互いを愛していますか?」という記者からの問いに対し、ダイアナは「もちろん愛しています」と即答。チャールズは「はい。でも愛の種類がどんなものかにも寄りますが」という、非常に面倒くさい答え方をしている。ダイアナにとって「は?」という気持ちだったに違いない。彼女の嫌な予感は的中する。