稲盛さん自身にも、そういうところがあります。皆がいる場に躍り込んできて「みんなで飲もうよ」とやったら、誰でもイチコロですよ。京セラの各工場には専用のコンパ室があって、上役も新入社員も車座になって飲むんです。僕も2度ほど参加しましたよ。

僕は飲食店を始めるまで、料理人というのは頑固で偏屈で酒飲みで喧嘩っ早くて、「『会議なんて俺は出なくていい。包丁1本でやってきたんだから』という奴が多いに違いない」と思っていました。

ところが、稲盛さんに学んだ「人のために汗を流すこと」「人のために尽くすこと」「誰にも負けない努力」などを、店の料理人に一つひとつ丁寧に話すと、瞬時に伝わるんです。驚きましたね。そのスピードは、ブックオフのときの5倍、10倍でした。

自分が相手を好きになれば、相手を惚れさせられる

修業を積んできている彼らは、何が世の中で必要か、何が正しいかが経験でわかる。僕も話すときにはその人を好きになる。相手の目を見て「そうなんだよね。もしかするとこの間、俺、悪いこと言っちゃったかもしれないけど、ごめんね。今度は気をつけるからね。乾杯しよう!」「ほら、好きな刺し身があるよ」と。これでいいんです。たった10分間。自分が相手を好きになれば、相手を自分に惚れさせることができるんです。

稲盛さんは塾生の前で、酔って帰って奥さんとモメて、「そんなことでおまえを嫁にもらったわけじゃない」「出てけ!」って怒鳴った、という新婚当時の話をされたことがあります。そのとき、奥さんは本当に出ていっちゃった。稲盛さんはその後を追っかけて、木造アパートまで連れ帰って「ごめんね、ごめんね」と謝ったそうです。

そんな経験は誰でもありますし、そんな嫁を追わない男もいるでしょう。だけど、稲盛さんは「しまった、と思ったら追え」「自分の失敗はすぐ謝れ」「二度としませんから、と言え」と教える。例えとはいえ、そういう自分の姿を隠さずマイクで話すわけです。外部にも漏れちゃうのに。普通はそんな話、できないでしょう? これをナマで直接聞いたら皆が信者になりますよ。人間・稲盛の赤裸々な実話ですから。