どんな住宅地でも、そこに建ち並ぶ住戸は人が暮らすために建てられる。空き家にせよ、家屋が解体された空き地にせよ、それは所有者固有の事情によって生じたものであり、住宅地全体から見れば例外的な存在だ。
ところが投機型の限界分譲地の場合、分譲地によって割合に差はあるが、多くの場合、半数から9割以上の区画が不在地主の所有地である。「不在地主」のほうが多数派なのだ。
全ての区画が空き地で家屋は一切なく、所有者全員が不在地主というケースもある。そのような分譲地は法令上の制限(建築基準法など)から、再利用の見込みもないことがほとんどのため、筆者は「放棄分譲地」と呼んでいる。
ご近所なのに、顔も名前も分からない
不在地主が多い限界分譲地は、どのような問題が起きているのだろうか。
筆者が取材する千葉県の限界分譲地は、東京や神奈川、埼玉といった遠方の都市部在住者である場合が多い。一部の大型分譲地や別荘地を除き、区画所有者を統括するような管理組合はないので所有者間に面識や交流はない。分譲地に住んでいる住民も、近隣の区画所有者の素性を知る人は少ない。
投機目的で「売りっぱなし」のビジネスモデルが主流であった千葉県の限界分譲地では、多くの不在地主が、ただ漫然と長年所有し続けているのみである。
もちろん、住まずとも定期的に土地の管理を続ける地主もいる。地元の草刈り業者に依頼して、物件広告にも掲載して売却の機会を待つ。しかし、価格の安い限界分譲地は地元の仲介業者も営業に熱心でないことが多く、多くの売主も、その売却に向けての姿勢は決して積極的といえないケースが大半だ。管理も含め「業者任せ」なのである。
一方、草刈りを行うこともなく、ただ荒れるに任せた未管理の区画にいたっては、おそらく所有者は、土地の管理に責任を負うべき立場であるという意識も希薄なのではないだろうか。少なくともその荒廃した現状は、土地所有者としての責務を果たしているとはとても言えたものではない。
伸びた枝やツルでも勝手に伐採はできない
例えば筆者は、千葉県横芝光町の海岸近くにある、1987年に分譲された小さな旧分譲地で暮らしているが、隣の区画が一切管理されておらず、雑草や雑木が生え放題のままで、横枝やツルが自宅の敷地内に越境してしまうので、町役場を通じて、所有者に連絡を取ってもらったことがある。
筆者は、その所有者に土地の整備を要求したわけではない。雑草が繁茂するたびに都度要求するのでは互いに煩わしい話なので、雑草の繁茂の状況に応じて、こちらの自主的な判断で伐採を行えるよう、敷地内への立ち入りの許諾を求めて連絡を試みたのだ。