中小企業には開示義務が課されていない

政府の人的資本情報の開示の動きについても、冷ややかな見方をする人事関係者も少なくない。

サービス業の人事部長は「今回の人的資本情報の開示の動きは証券筋や政府、とくに金融庁や経産省が強くプッシュしている印象を強く感じる。厚生労働省ではなく、投資家や政府からこうしろと言われることに違和感を覚える」と、語る。

そのうえで今回の開示の実効性についても疑問を投げかける。

「女性の活躍の開示項目では、女活法で男女間賃金格差が開示義務となったが、女性管理職比率はいくつかの選択項目には入っているが、開示義務となっていない。男性の育児休業取得率の開示義務の対象も従業員1000人以上の企業となっており、1000人以下の企業は公表義務がない。これだと全体として取得率が上がるとは思えない」と語る。

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実効性に関するもう一つの穴

実効性に関する“穴”はそれだけではない。男女間の賃金格差の開示義務があるのは従業員301人以上に限定されている。また、前述したように金融庁の金融審議会の報告書によると、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間の賃金格差の3つを有価証券報告書の開示項目としている。上場企業が対象になり、従業員1000人以下、300人以下でも上場していれば対象になるように思えるがそうではない。

報告書にはこう書かれている。

「なお、女性活躍推進法、育児・介護休業法等他の法律の枠組みで上記項目の公表を行っていない企業(現行制度を前提とすれば、女性管理職比率や男女の育児休業取得率は女性活躍推進法に基づく公表項目として選択していない企業、男性の育児休業取得率は従業員1000人以下の企業で任意の公表を行っていない企業等)についても、有価証券報告書で開示することが望ましい」

微妙な言い回しであるが、「望ましい」としているだけで、必ずしも女性管理職比率と男性の育児休業取得率の1000人未満の企業は上場企業であっても開示義務を課しているわけではない。結局、ふたを開けたら、開示するのは男女間の賃金格差のみだったということになりかねない。