ガソリンにも小麦にも政府が資金をつぎ込む

ガソリンに対する補助金については、当欄でも「岸田首相が『ガソリン補助金』にこだわり続ける“危険すぎる理由”」と題して解説したが、案の定、9月末では廃止できず、危惧したように、永遠に「出口」が見えなくなりそうな気配だ。

ところが、今度はガソリンに加えて小麦でも同様に輸入価格の上昇が国内での販売価格に跳ね返らないよう、政府が資金をつぎ込む、というのだ。

もともと小麦の輸入大半は、商社を通じて国が買い取り、国から国内製粉会社に売り渡す「国家貿易」が行われてきた。ウクライナ戦争前までは、輸入価格にマークアップと呼ばれる売買差益を上乗せした価格で製粉会社に売り渡されてきた。その差益は国内の小麦生産に補助金として出されていた。もちろん輸入価格は国際相場に連動するので、年に2回、4月と10月に売り渡し価格が改定され、2022年4月には平均17.3%の引き上げが行われた。

小麦の国際相場はひと時に比べ落ち着きを取り戻しつつあるとはいえ、輸入の平均価格は1年前に比べて高い状態が続いている。本来ならば10月からはさらに20%程度の引き上げが行われる見通しだった。それを岸田首相は「据え置け」と命じたのである。

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補助金をどんどん出したツケは国民に回ってくる

小麦の国家貿易による売買差益は農林水産省にとっては、「もう一つの財布」だった。米や麦は特別会計として別枠になっており、麦の売買差益は2019年度に815億円、2020年度に674億円にのぼる。2020年度の麦の損益のトータルは249億円の赤字だが、これは「管理経費」として1000億円近くを使っているためだ。麦と米が別々の勘定だったものを2014年度に統合して「食糧管理勘定」とした。これによって、麦の収益を米の補助金に回すことができるようになった。

小麦価格の高騰は、従来の特別勘定にも大きな影響を与える。売買収益を得るのが当たり前になっていた麦を、コストよりも低価格で売り渡す、つまり「逆ザヤ」になるとなれば、財政が赤字になる。特別会計の枠内でやりくりは難しく、コロナ対策や物価対策を名目に確保してある「予備費」などを使うほか、補正予算を組んで、別枠で予算を確保することになるだろう。そうなると原資は国債しかない。

ガソリンにも、小麦にも、国が補助金をどんどん出してくれることは一見、ありがたいことのようにみえる。そうでなくても小麦価格の上昇でパンや麺類などの値上がりが著しい。これ以上の値上がりを抑えるために、国が安く売るというのだから、こんな良い話はない、というわけだ。岸田首相も、補助金をせっせと出すことが、国民の生活を守ることにつながると信じて疑わないのだろう。

だが、そのツケは確実に国民に回ってくる。ガソリン同様、いつまで国が補助金で価格を統制することができるのか、である。政府が補助金を出せなくなれば、ガソリン価格は一気に国際価格に連動して跳ね上がる。小麦も補助金を出せなくなれば、国際相場に連動して売り渡し価格を一気に上げなければならない。その時の消費者へのインパクト、経済へのインパクトは計り知れないだろう。