テスラ方式とトヨタ方式のどちらが生き残るか

イーロン・マスクの経営姿勢は、一言でいえば、「リスクを積極的に取る」。その結果、新たなことに挑んでは、スピードの速さと、スケールの大きさを実現してきた。

竹内一正『イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズを超えたのか』(PHPビジネス新書)

テスラのEV出荷台数は08年ではたった100台程度だったが、13年後の2021年には約100万台で1万倍の成長を遂げた。2013年の世界のリチウムイオン電池の総生産量を超える能力を持つギガファクトリーを2014年にネバダ州で着工すると、2019年にはギガ上海、次いでギガベルリン、ギガテキサスと巨大工場を瞬く間に展開していった。

だが、その間には、ロードスターもモデルSもモデル3も立ち上げで混乱し、経営危機にも瀕した。テスラ自慢の自動運転オートパイロットは交通事故問題で米当局から調査のメスも入っている。

だが、トラブル続きであってもイーロンの事業スピードはますます高速化し、だからこそ、ネガティブな反応はイーロン・マスクが進む先でいつも付いて回っていた。

思い起こせば2008年テスラがロードスターを出した時、汎用のリチウム電池を数千個も搭載したEVという設計思想そのものに悲観論が相次いだ。当時の自動車メーカーは専用の大きなバッテリーを開発していたからだ。なにより、バッテリーセルを数千個も使う構造だと、もし1つのセルで品質問題が起きればバッテリー全部がダメになってしまうと多くの業界関係者、専門家が危惧していた。

それでも、テスラは独自設計でその不安を払拭した。気づけば、どの自動車メーカーのEVもリチウム電池を大量に搭載するテスラ方式に追従していた。

イーロン・マスクが進める巨大な一体鋳造機ギガプレスが、クルマ作りの本流となるかどうかは現時点ではまだわからない。「おもちゃの車を作るように、フルサイズの車を作る」と大風呂敷を広げたイーロンの本当の正念場はこれからだ。だが、もしイーロンの狙い通りになった時、6万社の下請けを抱えるトヨタはどう出るのか。今後に目が離せない。

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