先に紹介した新聞広告をもう一度見てみよう。見学バスの集合場所に総武線の西船橋駅が指定されている。こうした投機型分譲地の購入者は、ごくわずかな居住目的の住民を除き、その多くが東京や神奈川、埼玉などの関東全域の都市部在住者であった。

自分で足を運んで草を刈るのは負担が重すぎるということで、地元の管理会社に委託して土地の管理を長年続けている。

売りたくても、売れない

使いもしない土地の維持管理を続けるのか。無用ではないだろうか。草も刈らずに放置すると、近隣住民からのクレームがあったり、ときに不法投棄者のターゲットにされたりするリスクもある。

土地をうかつに放置できず、売れる見込みもないまま管理料を負担し続けているのが実情なのだ。

物件広告を見ると、千葉県北東部では今なお、膨大な数に及ぶ未利用分譲地の売地情報が掲載されている。しかし売り出し価格は実勢相場よりも高額で、数年にわたって買い手も付かず掲載され続けている物件も少なくない。

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インターネット上に掲載されている、文中の分譲地近隣の売地情報。価格は坪1万円前後まで下げられているが、いずれも成約に至らず長期間にわたって広告が掲載され続けているものである(公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会「ハトマークサイト」より)。

たしかに分譲当初の販売価格と比べれば安価だ。所有者としては精いっぱいの妥協をしているつもりなのであろう。だが今では、交通不便な僻地の旧分譲地。地元の相場観ではあまりに非現実的な価格である。

この分譲地のある区画には、すでにその看板は撤去されてしまったが、以前は所有者の自作と思われる売地の看板が立てられていた。

そこに記載された価格は44坪で20万円。広告記載の分譲価格は大卒初任給が5万円程度だった1972年当時で約200万円なので、額面だけでも10分の1まで下がっている。貨幣価値の違いを考えれば、それ以上の暴落と言っていい。

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すでに撤去されていたが、以前掲出されていた売地看板。44坪で20万円と記載されている(2018年4月撮影)。

朽ち果てた空き家、火事になっても放置…

分譲地内には空き家が目立つ。

このエリアでは中古住宅の需要は旺盛なのだが、あまりに交通が不便なためなのか、高齢となった所有者が介護施設に入所したり、入院したりして使われなくなったのだろう。かといって売りに出されずに放置されている空き家もある。

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分譲地内に放置されている空き家。

問題はこうした空き家が放置され続け、取り壊すしかないほど朽ち果てた場合である。

この分譲地には1カ所、火災で半焼し、残骸が撤去されず放置されている家屋跡がある。千葉県北東部の限界分譲地では、半焼家屋すらも放置されるのが常である。

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半焼後、そのまま放置されている家屋。地価が安く解体費用の回収が見込めない限界分譲地では、被災家屋の撤去も進まない。

わざわざ費用を投じて解体・撤去しても再利用や売却が見込めない。また土地の実勢相場が、家屋の解体に要する費用をはるかに下回っていて元が取れないことが原因だ。通常の劣化による廃屋も同様だ。