いかにもモテなさそうな国立大卒の40代男性

「一番最初に、僕でいいと言ってくれた人と結婚します」初回面談で、そう言ったのは、男性、42歳、国立大大学院卒、身長170cm、年収600万円。社員20人くらいのアルミ製品加工メーカーの跡取り息子で、クラスで一番、いや学年で一番モテないであろうタイプだ。致命的なのは、その会話力。質問には答えるが、コミュニケーション能力は相当低い。だが、彼と話していると、優しさ、純粋さをひしひしと感じるし、何よりも誠実で真面目。これを、お見合い相手が理解してくれると良いのだが。

彼は、何回も何十回も、模擬お見合いで練習をした。だが、なかなかうまく会話をできるようにはならないのだ。決まったセリフは言えるようになっても、応用がきかない。別の言葉を女性から投げかけられたらアウトだ。緊張してカチコチに固まり、お見合い中、ずっと下を向いてしまったこともある。でも、カウンセラーが諦めたら、婚活は終了だ。お断りを伝えるたび、受話器に向かって、私は彼を励まし続ける。

「これは、あなたを否定されたわけじゃない」「結婚をする相手には、あなたは少し違っただけのこと」「婚活は後ろを向いてはダメ。前しか見ない」「もっと良い人に出会うために、このご縁はないだけ」「あなたに合う人に必ず巡り合える」

70回を超えるお見合いのすえに待っていた“運命の出会い”

断られ続けること20回を超えたくらいから、ぽつりぽつりと仮交際のお返事がいただけるようになった。とはいえ、初回もしくは2回目のデート後、先方からお断りされる。お断りの理由のほとんどが「会話が続かない」こと。一緒にユニクロに行き、デートファッションを新たに何着か購入し、デートプランも一緒に考えたが、会話力だけはなかなかついていかない。

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これだけお断りされ続けると、普通の男性なら婚活を投げ出したくなるだろうし、婚活うつに陥ることもある。だが、彼はめげなかった。

だって、「僕をいいと言ってくれる女性」は、まだ現れていないのだから。こうして、彼の婚活が始まってから、1年半が過ぎた。彼のお見合いは、70回目を数えた。そこに、運命の出会いが待っていたのだ。彼より4歳年下の、小さな町工場を経営しているお宅の娘さんが「一番最初に、彼をいいと言ってくれた」女性その人である! しかも、実家の商売は鉄鋼関係で、彼の会社と非常に近い業種だ。小柄で、おとなしく、見た目かなり地味。とはいえ、芯がしっかりした女性だ。

同じ商売人の娘で、しかも似たような業種の娘さんとの出会いは、まさに彼の運命。彼女なら、彼の仕事を理解できるばかりか、ふたりで力を合わせて父親から引き継ぐ会社を守り、繁栄させていくはずである。