形だけの文武両道をうたう学校
この2校は、今の高校野球の「2つの典型」だ。
一つは一部私学の「甲子園出場」を前提としたビジネスモデルだ。中学野球の有名選手を「特待生」にして学費免除など好待遇で入学させ、他校で実績があった有名指導者を採用して選手を徹底的に鍛え上げる。グラウンドやジムなど練習施設も整備する。
さらに多くは「全寮制」で「24時間野球漬け」を可能にする。投資を回収するために、有望選手だけでなく、一般の野球部員も大量に入学させる。彼らの多くは3年間控え選手で、結果的に一般部員が有望選手の学費や寮費など諸経費を負担することになっている。
中には学園経営者に「何年で甲子園出場」など約束させられる指導者もいる。指導者も選手も「何が何でも甲子園」というプレッシャーの中で部活を行うのだ。
私学の中には「東大など有名大学進学」と「甲子園出場」という2つの看板を掲げて、別個に全国から生徒を募集するところもある。一つの学校に全く資質の違う2種類の高校生がいるのだ。最近はこういうスタイルを「文武別道」と呼んでいる。
ギリギリ部活をやっている学校
もう一つは「辛うじて野球にアクセスしている学校」。
わせがく高校は教育改革によって「多様な学びの形」が可能になったことで生まれた新しい高校だ。コースによって生徒の1日のスケジュールはまちまちだ。通信制、単位制、全日制とさまざまな就学環境にある生徒が、練習時間を確保するのは容易ではない。それをやりくりして予選に出てきているのだ。
通信制高校の中にも2016年夏の甲子園に北北海道から出場したクラーク記念国際高校のように、全寮制で週5日間野球に打ち込むという「野球漬け」の学校もあるが、一方で「不登校」などでドロップアウトした生徒を受けいれ、その生徒にあったスタイルで学びの場を提供している。
さらに、一部の公立校は、定員割れが続いている。そういう学校には学費や生活費をアルバイトで稼いでいる生徒もいる。ヤングケアラーも相当数いる。
部活は「生徒を学校につなぎとめる」ために存在している。指導教員は「バイト疲れで授業中は寝ていても、部活だけはやる子がいる。部活がなくなったら退学してしまう」と言う。
そんな学校も甲子園の予選に出場する。部員数がそろわない学校は「連合チーム」を組む。練習は週に数回できればよいほうで、バイトなどで参加できない生徒もいる。部活では草が生えたでこぼこのグラウンドで、数人の選手が古いボールを投げている。