たった1人の「あったらいいな」
どうしたらヒット商品につながるアイデアが出てくるのかとよく聞かれるのですが、私たちはお客様の「あったらいいな」を見つけるべく、社員総出でアイデア出しを行っています。全社員が毎月1件以上、新商品につながるアイデアを提出します。
私たちは日頃から「N=1」(母数1)を大切にしています。たった1人の「あったらいいな」がヒントとなって大きなヒット商品に結びつく可能性があります。もちろん商品開発に向けてはそのアイデアが技術的に実現可能かどうか、潜在需要がどれほどあるかといった市場調査を入念にしますが、最初の段階はとにかく“量”です。それこそが効率を生むのです。
全社員が毎月1件以上提出しますと、年間4万件近くの新商品アイデアが集まることになります。そのひとつひとつに開発担当者はフィードバックをし、データベースにも登録されます。そうすることで今は実現できなくとも次に生かせるかもしれませんし、集合値を分析することで生活者トレンドの把握にも活用できます。当社のデータサーバーには日本中の困りごとや「あったらいいな」が蓄積されているわけです。
これまでに幾つもヒット商品を考え出した“ヒットメーカー”もいますが、その人の発想方法をマニュアル化するよう指示したことはありません。それは一見効率化しそうですが、逆効果になると思うからです。目のつけどころや感じ方は人それぞれなのがいいのであって、上から「こうやりなさい」と押し付けると自由な発想ができなくなってしまいます。
開発事業部が経営陣へのプレゼンに用いるのは資料2枚。1枚目はパッケージデザイン案で、2枚目は15秒のCM絵コンテです。これまでにない商品ですから、パッと見て「何を実現する商品か」「どんな機能があるか」「どうやって使うか」が理解できないとお客様には伝わりません。
また毎月の提出とは別に「全社員アイデア大会」というのもありまして、創立記念日の8月22日にすべての社員が通常業務を止め、新製品の企画を部署単位で議論します。それらを開発担当事業部が選考し、アイデア提案者と共にブラッシュアップして経営陣にプレゼンします。
この全社員アイデア大会から生まれたヒット商品が、漢方薬の「テイラック」です。天気が崩れたり台風が接近してくると頭が痛くなる社員が「どうやら気圧が影響しているらしい」と気づいたのがきっかけでした。SNSを見ると同じタイミングで頭痛がひどくなる人が相当数いて「これを治す薬があれば」と提案したということです。