「防除不可」皆が行きつく答えはいつも同じだが…
以前、モーリタニアで開催されたアフリカ・サバクトビバッタ首脳会談で知り合ったアルジェリアのバッタ研究所の長のモハメッド博士に話を伺ったところ、「サバクトビバッタの研究はほとんどが実験室内で行われているが、実験室の成果を野外のバッタにそのまま当てはめることは不可能だ。実験室と野外とではバッタの顔は全然違うので、リアルなバッタを野外で調査する以外バッタ問題を解決することはできない。もちろんアフリカの野外でもバッタは研究されているが、皆が行きつく答えはいつも同じだ。『防除は不可能だ……』と。ただし、それでも私たちは研究しなければならない」とのこと。
彼の発言はバッタ研究の歴史を変えるためには新たな試みをする必要があることを訴えていた。
今日得られているサバクトビバッタの野外生態に関する知見のほとんどは1960年代に対バッタ研究所によって行われた研究に基づくものであり、それ以降際立った進展はしていない。
それは、フィールドでサバクトビバッタが何をしているのかきちんと研究されていないからだ。サバクトビバッタが一日をどのようにすごしているのか? いつエサを食べているのか? それ以外は何をしてすごしているのか? などときわめて単純な疑問にすら私は答えることができない。ただじっくりと彼らを観察すれば良いだけで何も難しい技術はいらないはずなのに。
好きな人のことは何でも知りたい乙女の心境と同じ
実際の彼らの生態を知らずして研究の進展は望めないというのになぜ誰もやらないのか不思議だ。
そして、こういった地味な仕事こそ、自分がやるべき仕事の一つとして捉えている。好きな人のことは何でも知りたい乙女の心境と同じで、私はサバクトビバッタのどんな些細なことでも知りたい。
現実問題としてモーリタニアでの生活は3日に1度は停電する無計画停電が行われたり、シャンプーしている最中や米を研いでいるときにまさかのタイミングで断水することが多々ある。しかし、便利な生活と新発見のどちらをとるかという質問は私にとって愚問だ。
サバクトビバッタの野外生態は手つかずのままになっているのでシンプルな観察でもすぐに何かを発見できる可能性が大きい。現に、1週間にも満たないフィールド調査で生態学に関する論文が出るのだ。これは私が優秀な研究者というわけではなく、若造の浅知恵ですら新発見ができたと見るのが正しい。