この事件はレーガン氏の演説中、部外者の男が舞台袖からに乱入し、氏とわずか10センチほどの距離にまで接近を許したというものだ。それ以来シークレット・サービスは、警備要員の一部を常に要人の至近に配置するよう警護計画を改めている。

奈良の銃撃事件の警護体制は、こうした点からもアメリカの感覚からすると大いに問題ありとみなされるようだ。ただし記事は、防弾ブリーフケースを掲げて安倍元首相の前に唯一立ちはだかり、射線を遮った警護員については、「ずば抜けた勇気を示した」として称えている。

ちなみに、同誌によるとアメリカのボディーガードたちは、あの手この手の変装で要人の至近距離をキープしているという。2001年、ブッシュ元大統領がワールドシリーズの始球式に登板するとなれば、ボディーガードはアンパイアに扮して最も近いグラウンド上からブッシュ氏を警護した。

2017年のイギリスでヒラリー・クリントン氏に名誉学位が授与された式典では、ボディーガードが教員に扮して壇上に立ち、式の雰囲気を尊重しながら厳しい目を光らせたという。

平成25年12月3日、安倍総理(当時)は総理大臣官邸で、アメリカ合衆国のジョセフ・バイデン副大統領(当時)による表敬を受け、続いて共同記者発表を行いました。(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

「ほとんど真剣だとは思えないほど、緩い警備だった」

警護体制に関して日本は、欧米の基準よりもかなりおおらかだとみられているようだ。日本に住んで27年という英タイムズ紙の日本特派員は、安倍元首相の自宅マンション周辺では「警備体制が驚くほど緩かった」と指摘している。

安倍元首相は通算8年8カ月の首相任期中、昭恵夫人とともに、東京都渋谷区のマンションに住んでいた。そこからわずか1ブロックほどの距離に住んでいたという同紙記者は、「私たち(記者と家族)が住んでいることからも明らかだが、そこは豪勢で高級な住宅地というわけではなく、国家指導者の存在は私たちの暮らしに夢のような不思議な感触をもたらしていた」と振り返る。

警備体制について記事は、近隣には私服警官を含む警察官たちが警護にあたっていたと説明している。しかし、「それでも欧米の指導者と比較すると、警備は驚くほど、ほとんど真剣だとは思えないほど、緩かった」としている。近所の人々は親しみを込めて、その気になれば台所の窓から狙えるかもね、などと冗談を交わしていたようだ。いまとなってはそんなユーモアもはばかられる。

警備を最小限にしていた理由のひとつには、物々しさを抑え、地域との垣根を低くする配慮があったのかもしれない。地元の神社で祭りがあれば、当時の首相の母自らが飲み物とお菓子を子供たちに振る舞い、首相自身も気軽に写真撮影に応じていたという。

安全な国でなぜ…銃撃事件への海外メディアの驚き

世界でも安全な部類に入る日本という国で、元首相が凶弾に倒れたという事件は、世界に驚きを波及させている。容疑者が用いた銃と弾は自作のものだったが、それでも厳しい銃規制の敷かれた日本での銃撃事件は、海外を驚かせた。