物流が停止し食糧不足に陥ることが想定される

現代は江戸時代よりいろいろな意味で進んでいるので、噴火が起きて鉄道や道路、飛行機が多少止まっても江戸時代よりも上手く対応できると思っている人がいるかもしれない。しかし、私は非常に悲観的だ。端的に言ってさまざまな交通手段に支えられた物流システムが機能しているから、東京は生きていけるのである。例えば食について考えてみよう。

東京の人たちが消費している食糧はほとんどが東京の外からもたらされるのはわかるだろう。だから、物流が止まると一挙に食糧不足に陥る。いやいや、そんなことを言っても東京にはコンビニやスーパーがたくさんあるからなんとかなるでしょう、と思っている人がいたらそれは甘い。

一昔前であれば、町の食料品店は裏の倉庫にある程度の在庫を抱えていたが、今のコンビニやスーパーは頻繁な配送で店頭の商品を切らさないようにしている。在庫を抱えると、それが売れないときに損をするし、在庫を置いておくスペースの確保だって都会では金がかかる。だから、平常時は在庫を持たない方が正解なのだ。

ところが、これは噴火時には大きな弱点となる。在庫を持たないということは、配送が止まったらすぐに店頭からものがなくなることを意味する。最近は、台風が来たり大雪が降ったりするとコンビニやスーパーから一気に商品がなくなる事態がよく起きる。コロナウイルスが流行しはじめたとき、パスタやコメ、トイレットペーパーが一時的に品不足になったことを思い出す人もいるだろう。

そういうのは常軌を逸した買いだめをする人がいるせい、というより、「念のため、ちょっとだけ多めに買っておくか」と考える普通の人がたくさんでたために、普段と少し違う売れ方をしたためだという。それくらい弱い物流システムに、降灰のような極めて異常な事態が襲いかかったら、経験したことのないような品不足となる可能性が高い。

もっとも深刻なのは水問題

私が一番深刻だと考えているのは水問題である。神奈川県の場合、横浜や川崎など県東部の大都市は、相模川さがみがわ酒匂川さかわがわの水を水道水として使っている。ところが、この2つの河川はいずれも富士山に源を発しているだけでなく、宝永噴火では流域のかなりの部分が降灰の影響を受けた。このため、江戸時代の文書を見ても上流から火山灰が流れてきて川底にたまり、人足を集めてそれを除去したという記録がある。

相模川や酒匂川から水道用の水を取る施設を取水堰しゅすいせきというが、そこに土砂がたまったら取水ができなくなる。今でも、ごくまれに大雨で流木が大量に流れてきて、取水が止まることがあるが、噴火後の土砂は流木より深刻だろう。東京だったら大丈夫というわけではないだろう。

確かに、東京の水源は利根川とねがわや荒川など、北関東から流れてくる川が大半だが、山梨を水源とする多摩川たまがわ水系の川からも取水している。それに次の噴火が宝永噴火と同じように真東に火山灰をまき散らすとは限らない。取水が止まるような事態は、噴火開始後すぐに起きるわけではないかもしれない。

しかし、火山灰にはフッ素などの水に溶けやすい体に有害な物質も含まれている。一方、普通の浄水施設(図表1)は覆いのないプールのような場所なので、火山灰がどんどん落ちてくる。そうすると火山灰に付着した有害物質が水道水に溶け込んでしまう。こうなると、水道として供給をしても飲用には適さなくなってしまう。こうした変化は降灰後速やかに発生する可能性が高い。

大都市の水源から水道まで。川を流れる火山灰や浄水場の池に落ちる火山灰の影響が懸念される。(イラスト=たむらかずみ)