『シン・ゴジラ』のような会議から学んだこと
実は、私は先ほど紹介した「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」で降灰シミュレーションの監修をするお役目で参加させてもらったのだが、第1回会合では、どこから検討をしはじめたらよいのか、どの委員も困った顔をしていて、正直なところ本当にこの会議、大丈夫なのかなと思った。
この会議の少し前に『シン・ゴジラ』という映画が公開されて、政府に呼ばれた専門家が全然役に立たないシーンがあったが、それを彷彿とさせた。あのシーンほどひどくはなかったのはもちろんだが、現在の日本にいる専門家でこの問題解決の役に立つ人はあまりいないのだと思った。多分世界中からかき集めても、そんなに状況は変わらなかったと思う。
何しろ世界中見渡しても、宝永噴火並みの大規模降灰に見舞われた近代都市はないのだ。
当時の内閣府の担当者がとても優秀だったので、なんとかまとまりがついたが、報告書には問題の解決法が書いているわけでは全くない。これだけいろいろな問題があることを示したのがワーキンググループ報告書の意義だろう。
大規模降灰の問題は専門家だけでは解決できない
ここまで読んで、賢い読者の皆さまにはお察しいただけたと思うが、大規模降灰の問題は火山学者が、今までの知見をもとにアドバイスをして、行政や住民がそれを守れば解決、というような単純な問題ではない。火山学者がやれるのはせいぜい、過去の噴火を調査した結果や、シミュレーションに基づく研究から、来るべき噴火のイメージをお示しする程度である。
交通や水道などの社会基盤への影響や、それが物流に及ぼす影響、東京やその他の工場やオフィスの事業継続性も、専門の研究者がいるわけではなく、それぞれの担当者が自分で考えていくほかはない。
もちろん、ひとりで解決できる問題ではないが、自分事として受け止めて考え抜いた末に、同じような人と情報交換をして、社会全体として解決に向けて頑張ろうという性質の話だと思う。幸いにして、大規模降灰の問題に携わる人々があちこちで少しずつ現れているのは心強いことだ。大きくて複雑な問題なので、今後何年もかかって、少しずつ取り組んでいくしかないが、富士山に限らず日本のどこかで、大規模な噴火は将来必ず発生する。
本稿の読者は、これから世の中に出ていく人も多いと思うが、火山のこういう側面にも興味を持って、それぞれの持ち場で備えを進めていってほしいものだと思う。