生涯大事なのは「キョウイク」と「キョウヨウ」

現在「日本ユニセフ協会」の会長をされている赤松良子さんは、私より7歳年上。元官僚で労働省(現・厚生労働省)初代婦人局長や国連日本政府代表部公使を歴任し、細川・羽田両内閣では文部科学大臣を務められ、労働省にいらっしゃったときには日本の女性の働く環境を大きく変えた、あの「男女雇用機会均等法」(1986年施行)の立案、成立に尽力されたことでも広く知られています。

写真=時事通信フォト
2019年7月11日、都内でインタビューに答える赤松良子さん

また、女性の政治参画拡大を目指す市民団体「WINWIN」や「クオータ制を推進する会(Qの会)」、選択的夫婦別姓制度の実現を目指す民法改正運動「mネット」の呼びかけ人などもなさっている、私がとても尊敬している先輩です。

その赤松先生とお話をしていたときに先生が、

「湯川さん、人生は生涯、教育と教養が大切なのよ」

とおっしゃったのです。それで私が「はい、わかりました! 一生懸命勉強します」と応えると、赤松先生は笑いながら、こう続けられたのです。

「違うのよ。キョウイクは『今日、行くところ』、キョウヨウは『今日の用事』という意味よ」と。

「教育」ではなくて、「今日、行くところ」。「教養」ではなくて、「今日の用事」。つまり、「今日、会う人」とか「今日、やらなければいけないこと」といった意味だったんですね。

定年退職を機に、突然生き方が分からなくなる人がいる

よく男性は名刺がなくなると、途端に老けこんで元気がなくなってしまうと言われますが、私もそういう男性の姿をよく目にしてきました。名刺社会で生きてきたから、それがなくなったら「今日の用事」もなくなってしまうということでしょうけれど、それではちょっと困りますよね。

一方女性は、「今日のお総菜」も含めて、掃除、洗濯、お買い物など、「今日、行くところ」や「今日、しなくてはいけないこと」をずっと続けてきたので、老後も改めて困ることは少ないのかもしれません。

他に、世間には「老後の三原則」というのもあるようで、それは「行くところがある」「会う人がいる」「することがある」という三原則。この三原則が、定年退職を機に、ある日から突然三つとも「ない」となったら、ぞっとするのではないでしょうか。

私は、そういった「生き方の原則」のようなものを、「老後」といった形で限定せず、生涯にわたって通用するイメージでつくれないものか、とずっと考えてきました。そうして、60歳のときにできあがったのが、私自身の幸福な生涯を導くための「あいうえお」の法則でした。