ゴキブリの進化を支えた「うんち」

「集団が形成されれば交尾がおこなわれ、次の世代を生み出すことができる。たとえ天敵に襲われても、群れでいることで集団として生き延びる可能性が高くなる。このような集合フェロモンに発する一連の行動は、個々のゴキブリが生まれた後の経験から習得したものではなく、生まれる前から備わっている生得的行動なんだ。これは、ゴキブリが進化する過程で形成されたものだろう」

うんち君は驚いたようです。

「え⁈ ゴキブリは触角で、自分たちのフェロモンだけを感知しているんだ。イヌとは違った方法で、嗅覚を発達させてきたんだね。そして、ゴキブリのフェロモンによる集合行動は、進化の過程で備わったもの……。その一連の行動のなかで、『うんち』は最初の引き金となるフェロモンの運搬役として重要な役割を果たしている。『うんち』ってすごいなあ」

触角はよくアンテナに喩えられますが、フェロモンをキャッチするゴキブリの触角は、いわば人間社会でラジオのアンテナを使ってキャッチできる複数の電波のうち、特定の周波数の電波のみを音声として情報処理するようなもの、といえるかもしれません。

ミエルダがうんち君に同意しています。

「ゴキブリはきわめて能動的な『うんち』を排泄しているんだ。それによって、集団や種の存続にもつながっている。『うんち』は確かにすごい存在だ」

カバの「うんち」活用法

ミエルダがさらに話を広げました。

「『うんち』には別の使い方もあるよ。たとえば、動物が『なわばり』を示す際にも『うんち』が使われることがあるんだ。なわばりとは、他の個体が入ってくることを許さない占有地域のことだ」

たとえば、アフリカに生息しているカバは、水辺から上がると「うんち」を排泄しながら、短い尾を震わせて「うんち」を四方へき散らします。「うんち」を使って自身のにおいを周囲に漂わせ、なわばりを示す行動です。

写真=iStock.com/Maxlevoyou
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同様に、野生の食肉類の仲間は、石や倒木などの目立つ場所に「うんち」をして、そのにおいによって自らのなわばりを示します。

一方、イルカやクジラなどの海生哺乳類も個体間でのコミュニケーションをとっていますが、水中に暮らす彼らにとって、におい物質を体外に放出しても水流ですぐに流されるため、化学物質を介した情報伝達の効率はきわめて悪いと考えられます。