(1)デモクラシー
バーナード・クリック 添谷育志・金田耕一訳・解説

(2)日本型ポピュリズム 政治への期待と幻滅
大嶽秀夫

(3)輿論と世論 日本的民意の系譜学
佐藤卓己

政治家は選挙民の「代表」だというのがタテマエだが、現実には選挙民の「代理」になりがちだ。勝利を得ようとする政治家は、徹底して選挙民の願望を掻き立て、その代理を務めようとする。(2)は近年の「代理」に傾斜した政治を分析する。選挙民側に見識があれば、こうした代理人政治は阻止できるかもしれないが、(3)は、戦後日本では、国民の見識である「輿論」と大衆の感情である「世論」が、「世論」という言葉だけで語られるようになった経緯を詳細に述べて愕然とさせる。

(4)ルイ・ボナパルトのブリュメール18日
カール・マルクス 植村邦彦訳

(5)政治的なものの概念
カール・シュミット 田中浩・原田武雄訳

世論を味方につけようとする政治家は、その政治思想や支持基盤すらもかなぐり捨てて、そのときの選挙民の感情に訴える。(4)で30代前半のマルクスは、ナポレオンの甥というだけの山師的人物が、なぜ19世紀の中頃にフランスで大統領に選ばれ、はては皇帝の座につくことができたのか、独特の筆致で描き出している。諸勢力の危ういバランスの上に成立する政権は、国民の人気取りに傾斜し「ボナパルティズム」に走る。小泉政権や鳩山政権を考える際に大いに役に立つ。(5)は、社会や文化が衰弱したため、あらゆる領域で「敵か友か」の政治的対立が激化した、ドイツの1930年代を予告した書。いまの日本にとって、いずれの事態も無縁ではない。

(6)アメリカのデモクラシー
アレクシス・ド・トクヴィル 松本礼二訳

(7)比較政治学 構造・動機・結果
ジョヴァンニ・サルトーリ 工藤裕子訳

自国の政治を客観的に見るには外国の政治制度を知ることが不可欠だ。(7)は比較政治学の権威による入門書。リーダーシップの確立に苦労しているのは日本だけでない。実は議院内閣制のほうが大統領制よりリーダーシップは安定しており強い。むしろ日本は制度的には恵まれている。

(8)日本の行政 活動型官僚制の変貌
村松岐夫

(9)行政改革と調整のシステム
牧原出

この20年余、官僚を排除すれば民主政治が実現するという議論が盛んだったが、(9)は現実の行政を詳述して、それがまったく幻想であったことを教えてくれる。

※すべて雑誌掲載当時

(市来朋久=撮影)